(1)私的鑑定意見書とは?

 私的鑑定意見書とは、裁判所から選任された鑑定人ではなく、当事者が独自に依頼をした医師に、当該事案に対して医学的知見に基づく意見を記載してもらった書面のことをいいます。

(2)私的鑑定書の信用性

 弁護士も、医学成書や医学論文などを読むことにより、ある程度の医学的知見を身につけることは可能です。しかし、弁護士が取り扱うのは個別具体的な事案であり、一般論としての医学的知見を多く身につけたとしても、その知識を応用して依頼者の言い分に沿った形で適切に法的構成をすることは非常に困難な作業となります。

 そこで、医師に依頼して、具体的な事案に医学的知見を適用した場合どのような点に問題があるのか、訴訟になった場合どのような見通しが立つのかということを意見書として書いてもらうことになります。

 ところが、私的鑑定意見書については、その信用性をめぐって議論があります。

 私的鑑定書については、裁判所による選任手続を経て選任された鑑定人によって作成されたものではないこと以外、鑑定人により作成された意見書と変わることはなく、その信用性を評価する考え方があり、最近は裁判所において私的鑑定意見書に対する証拠価値が高く評価される動きも見られます。

 しかし、他方で、私的鑑定意見書はあくまで一方当事者に依頼されて作成されるものである以上、いかに医師が公正に意見書を書こうとしても、頼まれた側の当事者に迎合的な内容になるおそれがあり、医学の専門家である医師が作成したということのみで私的鑑定意見書の証拠価値を高く評価することは危険であるといわざるをえませんし、結論のみしか記載されていないものであれば、裁判所の心証形成に役立つものとはいえないでしょう。

 ですので、私的鑑定意見書に高い証拠価値を持たせるためには、できるだけ作成した医師に名前を出してもらうこと、当該事案にかかる医療分野の専門医や当該分野に優れた診療実績を持つ医師の作成してもらうこと、私的鑑定意見書の記載内容と他の証拠との整合性をもたせること、結論にいたる根拠が合理的に説明されていることなどに注意をすることが重要である。

 しかし、意見書の内容は非常に専門的な内容になる場合もありますので、意見書の結論にいたる根拠が合理的なものであることを裁判所にしっかりと理解してもらうことが必要となります。そのためには、弁護士自身が意見書の内容をしっかりと理解・把握しておく必要がありますし、特に内容が高度になればなるほど、自分がしっかりと理解できていなければ、自分が望むような心証を裁判所に形成させるのは困難です。

(3)私的鑑定意見書の作成を医らする場合の注意点

 私的鑑定意見書を書いてくれる医師は、医学の専門家でありますが法律の専門家ではありません。

 ですので、私的鑑定意見書の作成を依頼する場合には、法律概念としての「過失」や「因果関係」などの意義をよく理解してもらう必要があります。

 また、意見書の証拠価値を担保するため、意見の根拠となる文献があるならば、必ず引用したほうがよいでしょう。また、意見書の中に意見書を書いた医師の経歴や実績を記載するなど鑑定書と同様の形式を整えることも有効ではないかと思われます。

(4)私的鑑定意見書の作成時期と提出時期

 まず、医療過誤訴訟を提訴する以前の段階で訴訟の見通しを立てるために私的鑑定意見書を作成してもらう場合は、作成を依頼された医師は、自分が作成した私的鑑定意見書により依頼者が敗訴することはないので依頼者側に不利な内容も書きやすいことから信用性は相当程度担保されるでしょう。

 しかし、提訴後においては、依頼を受けた医師は、自らが作成した私的鑑定意見書により依頼者が敗訴してしまう可能性があることにプレッシャーを感じ、依頼者側に不利なことは書きにくくなるので一般論として証拠評価は低くならざるをえません。

 また、弁護士としても、依頼者に不利な内容の私的鑑定意見書をそのまま裁判所に提出すると、弁護士としての善管注意義務違反になるおそれがあります。

 私的鑑定意見書の提出時期に関しては、医療過誤訴訟も迅速化が望まれる現代においては、争点の明確化と立証活動の方向性が早期に確定されることが求められるので、私的鑑定意見書もできるだけ早期に提出することが望ましいといえます。

(5)私的鑑定意見書の問題点

 訴訟当事者の一方が私的鑑定意見書を提出すると、反論のため相手方も自らの主張を補強するための根拠として相手方に有利な内容の私的鑑定意見書を提出してくる事態がまま見受けられます。

 医師も診療等の本業を行いながら私的鑑定意見書を作成することから私的鑑定意見書の作成には時間がかかるので、せっかく一方当事者が早期に私的鑑定意見書を提出し争点や立証活動の方向性が明確化したにもかかわらず、いわゆる意見書合戦のような状態になった場合、訴訟遅延を招く恐れがあることは否定できません。

弁護士 藤田 大輔