1 エコノミークラス症候群

 皆さんもエコノミークラス症候群という名称を聞いたことがあると思いますが、どのような機序で起こるのかご存じですか。
 私は医者ではないので、あくまでも医療裁判を手がける弁護士の浅知恵の範囲で解説したいと思います。このコラムは医療過誤とは直接関係はありません。

 エコノミークラスによる長時間のフライトで問題となるのは、深部静脈血栓症です。どのような機序で発症するのかというと、狭い空間で窮屈に座った状態が長時間継続すると下肢の血流が滞る傾向が出てきます。そのため、滞ったところで血栓ができてしまう…。そして、立ちあがった拍子に下肢で滞っていた血栓が血液の流れに乗って心臓(右心房→右心室)を経て肺で詰まってしまうんです。正常であれば肺に戻ってきた血液は酸素を受け取って心臓(左心房→左心室)に向かうわけですが、肺に血栓が詰まってしまうとこの血流に障害が生じます。

 肺に血栓が詰まって血流が阻害されると恐いですよ。なぜなら、心臓は肺から酸素と結合した血液を受け取ってこれを体全体の組織に送るわけですが、その機能に障害が生じるわけですから…。

 この発症機序から推察すると、個人的にはエコノミークラスだけでこれが起こるとは思えないんですね。ビジネスクラスだろうと、場合によってはファーストクラスであろうと、地上にいるのとは比較にならないくらい窮屈ですよ。後は、フライト時間との相対的な関係次第でしょうね。ビジネスやファーストでも、例えば20時間を超えるフライトであれば相当きついと個人的には思います。

 そもそも、飛行機の乗客のほとんどがエコノミークラスですから、エコノミー暮らしの乗客に発症するのは確率論からいって当然です。だから、エコノミークラスでなければ大丈夫などと考えない方がいいと思います。

 予防策として私がやっているのは、とにかく機内を歩くことです。狭い機内で歩いても楽しくないですが、ずっと座ったままはよくありませんから。

2 低酸素血症

 私が個人的に恐いのは、エコノミークラス症候群よりも、この低酸素血症のほうです。
 こちらはエコノミークラス症候群よりもやや難しい話です。

 私たちはもちろん機内でも呼吸をしていますが、気圧が地上にいるときと違います。地上の気圧は1気圧ですが、機内では4分の3気圧程度に調節されています。なぜ地上と同じ気圧で調節されていないのかというと、たぶん技術的には可能だと思うのですが、それをやると機体の強度を高めなければならず、機体が重くなってしまう。そうするとその分燃料費が高くなる…。つまりコストとのバランスの関係で4分の3気圧なら大丈夫だろうということでそうなっているそうなんです。

 でも実はこれが危険で、気圧が低下すると血液による酸素の運搬機能が低下します。ここから少々専門的な話になりますが、血液が体中に酸素を届けているのは、赤血球中にあるヘモグロビンのお陰です。もっとも、全てのヘモグロビンが酸素と結合しているわけではありません。だいたい正常だと98%程度。ほとんど100%じゃないかと言いたくなりますが、でも正常値はこのくらいで、この割合のことを「酸素飽和度」と言います。

 そして、この酸素飽和度が90%以下になると低酸素血症の領域に入ってしまう。正常値が98%程度なら80%くらいでも大丈夫だろうなどと考えがちですがそうではないんです。90%を下回るあたりから危険領域に入ってくるんです。

 では、この酸素飽和度はどうなると下がるのか。それは、動脈血の酸素分圧が下がると酸素飽和度も下がるんです(この酸素飽和度と動脈血酸素分圧の関係を示した曲線をヘモグロビン酸素解離曲線といいます)。動脈血酸素分圧の正常値は100mmHgで、この時の酸素飽和度が約98%くらいなんです。そして、酸素分圧が60mmHgまで下がると、酸素飽和度が90%になるんです。90%ということは、ヘモグロビンの90%しか酸素と結合していないということなんです。

 機内の気圧が低下していると、この酸素分圧が低下してしまう。低いときには93%程度まで下がってしまう。そして、さらによくないのは、機内で眠ること。眠ってしまうと酸素分圧が60mmHg、酸素飽和度が90%まで下がってしまうそうなんです。低酸素血症になるかならないかのギリギリのところです。ちなみに、私は機内でよく眠るんですね。眠っちゃいけないと思っても、睡魔に勝てず眠ってしまいます。どうりで飛行機に乗ると体調が優れないわけです。ちゃんと十分な酸素が体全体に送られていないんだと思います(笑)。
 なので、これを避けるんだったらエコノミークラスのほうがお薦めかも。ファーストやビジネスだとぐっすり眠れちゃいますから。

 みなさん、ちょっと参考になりましたか?
 でも、カラダの調子が悪くなったからといって航空会社を訴えないでくださいね。