(1)医学文献を調べる必要性

 医療過誤訴訟事件を取り扱う場合、当該患者の診療記録等を入手できれば、当該患者がどのような疾病であり相手方医療機関においてどのような内容の治療を受けたのかを把握することができます。

 しかし、医療過誤事件を法的に解決するためには、相手方医師が行った診療の問題点を「過失」や「因果関係」など法的な観点から整理、構成しなければなりません。

 そのためには、当該患者の診療記録等のみならず診療時点における当該疾病に関する医療水準を把握する必要があります。

 そのためには、医学文献を調査し、当該疾病やその治療法に関する知見を習得したうえ、診療当時における当該疾病に関する医療水準がどのようなものなのかを正確に理解しておく必要があります。

(2)医学文献にはどのようなものがあるのか?

 まず、基礎的な知見を習得するために役立つ文献としては、成書があります。

 成書とは、医学に関する教科書をいいます。成書は、基礎的な医学的知見について調べるときに役に立ちます。

 医学部の図書館や弁護士会の図書館、大型書店などで比較的簡単に入手できるうえ、内容としても基礎的・標準的な内容を扱っているので、医学の進歩に伴って文献として使用できなくなることは少ないという長所があります。

 成書としては、「標準~」シリーズ(医学書院)が代表的な文献といえるでしょう。

 また、MOOKシリーズ(金原出版)も標準的な成書です。「今日の診療」シリーズ(医学書院)は、個別の疾患ごとに標準的な診断方法や治療法が掲載されており、使いやすいです。

 次に、医学論文が挙げられます。成書は、入手しやすいうえ、標準的な内容が掲載されており分かりやすい、というメリットがありますが、当該具体的診療に対する過失の有無や当該診療行為と結果の間の因果関係の有無など診療行為の問題点を法的な観点から整理するための資料としては十分な資料とはいえません。

 そこで、さらに医学論文を読む必要があります。医学論文には、原著論文、総説、症例報告等があります。分類の説明については詳細になるので割愛しますが、医療水準との関係では執筆された時期に注意して読む必要がありますし、一概に医学論文といっても必ずしも信用性が担保されているものばかりでもないことから、証拠価値との関係ではどれだけ権威のある論文であるのか、引用されている他の文献の信用性は確保されているのかということについて個別的な判断をしながら読む必要があります。

(3)医学文献の探し方と注意点

 まず、最も注意を払うべき点は、医療水準は医療の進歩により変化するので、文献が作成された時期です。この視点が抜け落ちたまま自己に有利な記載を見つけたとしても、訴訟追行のうえでは全く役に立たないことになります。

 文献の探し方としては、図書館や書店などを利用して探す方法があります。この方法は、まさに手作業で文献を探すので、探す過程で色々な文献を手にし、色々な文献を比較対照しながら文献を探すことができますし、当該争点とは直接的に関係しないが、優れた文献を見つける場合があるなどのメリットがあります。

 しかし、手作業であるため、時間や手間がかかってしまうというデメリットがあります。

 現在では、コンピューターの検索システムが発達しており、これらの検索システムを利用することで、効率的・網羅的に文献を探すことができます。

 利用契約を締結する必要があるものとしては「JOIS」(科学技術振興事業団・科学技術情報事業本部が運営)や「医中誌Web」(医学中央雑誌刊行会が運営)などがあります。

 利用契約を締結する必要のない検索方法としては、医療機関や大学、医師会や製薬会社のホームページなどで医学情報を得ることができる場合があります。また、各種疾病に対する診療ガイドラインは、特定の疾病に関する標準的な治療指針であり、特定の疾病に対する医療水準を把握することに役立ちます。独立行政法人医薬品医療機器総合機構が開設している「医薬品医療機器情報提供ホームページ」では医薬品や医療機器の添付文書、安全性に関する情報が入手できます。

 それらのホームページを探す場合、藤田康幸編「医療事故マニュアル」(現代人文社)に各ホームページのURL情報が掲載されているので参照すると便利です。

 また、医療水準だけでなく、過失について調べるためにプロスペクティブな視点から作成された文献を探すのか、因果関係について調べるためにレトロスペクティブな視点から作成された文献を探すのかを意識して探せば効率的な検索ができると思われます。

弁護士 藤田 大輔