>以下、「開業医の転送義務(最判平成15・11・11) 」の続き

                                     

午前11時
入院措置がとられる
D病院の医師は、直ちに頭部のCTスキャン検査等を実施し、脳浮腫を認め、急性脳症の可能性を強く疑い、投薬等の治療を施す
しかし、患者はその後も意識が回復せず

平成元年2月20日
原因不明の急性脳症と診断される

平成2年2月
E病院を退院したが、急性脳症による脳原性運動機能障害が残り(身体障害者等級1級)日常生活全般にわたり常時介護を要する状態に

平成13年5月8日
患者に後見開始の審判

裁判所の判断

1.転送義務違反

 本件診療中、点滴を開始したもののおう吐の症状が治まらず、軽度の意識障害等を疑わせる言動があり、母親から診察を求められた時点で、その病名は特定できないまでも、本件医院では適切に対処することができない、急性脳症等を含む何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことをも認識することができた。

 この重大で緊急性のある病気のうちには、…予後の良否が早期治療に左右される急性脳症等が含まれること等からすると、その時点で、直ちに患者を診断し、適切に対処し得る、高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ患者を転送し、適切な治療を受けさせるべき義務があった。

 医師には,これを怠った過失がある。

2.転送義務違反と後遺症との因果関係

 医師が、適時に適切な医療機関へ患者を転送し、適切な検査、治療等の医療行為を受けさせていれば、重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは、不法行為責任を負う。

 相当程度の可能性の存否については、転送すべき時点における患者の具体的な症状に即して、転送先の病院で適切な検査、治療を受けた場合の可能性の程度を検討すべき。

 (後遺症に関する統計を検討し)上記相当程度の可能性が存在することをうかがわせる。

 この点について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻す。

 このように、求められる医療水準が他の総合病院等に比べると低く設定される開業医には、それをフォローすべく適切な医療機関に適宜に転送する義務が課されます。

 

3.なお、単に適切な医療機関に転送させるだけでは足りません。

 名古屋地判昭和59・7・12は、医師の転送義務の内容について、「転送先に対し患者の状態等を説明して受け入れ先の承諾を得た上で、適切な治療を受ける時機を失しないよう適宜の時機・方法により転送先まで患者を送り届けるべき義務」とし、転送義務の内容には、求諾義務、説明義務、搬送義務(安全かつ迅速に送り届ける義務)が含まれると判断しています。

 また、名古屋高判平成4・11・26も、転送に際し従前の経緯の詳細を伝達する義務や、転送方法についても、患者の状態に変化が生じないよう可能な限りの措置を講ずべき義務(場合によっては付き添いまで求めている)を明言しています。

 この2つの裁判例は、両方とも、転送に際し、転送先の病院に対し経緯等について簡単な説明しかせず(前者は「送ったからよろしく頼む。」のみ)、しかも患者の家族らに自家用車で患者を送らせたという事案でした。

弁護士 池田実佐子