<神戸地判H20・11・12>

 血栓性塞栓症の手術中、カテーテルを導入するためのシース管で患者の心臓を傷付け、心タンポナーデを引き起こし、死亡した事案

1 過失

 患者の右心室の穿孔は、ガイドワイヤーに沿って、誤って右心室に挿入されたシースが心筋を突き破ったことにより生じたと推認するのが相当

 本件処置の過程において、フィルターを通すためのシースは上大静脈から右心房に入れ、その後に下大静脈に入れることになるが、心臓の構造に照らせば、目視下で行われるわけではないカテーテル操作では、シースが誤って右心房から右心室に入ってしまう可能性は相当程度あるといわなければならない。そして、シースを誤って右心室に挿入した事実に気付かず、さらにシースを下方に挿し込んだ場合、シースが右心室の下部の心筋を傷つけ、心タンポナーデを惹き起こすことも当然予見されること 

↓そうすると

 シースを操作していた医師としては、シースが右心室に入らないよう随時透視モニターを見ながら注意深くシースを進める注意義務を負っていたというべき

↓ところが

 医師は、その注意義務を怠った過失により、シースを右心室に挿入してしまい、患者の右心室心筋を傷つけ、心タンポナーデを惹き起こした。

2 過失と死亡との因果関係

 患者の肺塞栓は重傷度が進んだものであったが、被告病院に搬送された時点(8月2日午後1時35分ころ)から本件処置が開始された時点(8月2日午後6時15分ころ)までの間、血圧は安定していたし、意識も清明で会話も可能な状態であった

↓ところが

 患者の容態は、右心室穿孔が生じた時点(穿孔は8月2日午後7時20分ころ生じたと考えられる。)を境に、急激に悪化している

↓すなわち

 患者は、8月2日午後7時25分には、呼吸停止、徐脈、血圧低下によるショック状態となっているが、このショック状態は、肺塞栓の急激な悪化に伴うものではなく、心タンポナーデに由来すると考えなければならない

 心タンポナーデ解除後もAの心肺機能は、右心室穿孔(8月2日午後7時20分ころ)から一時的心停止までの約8時間半にわたり、患者の心肺機能は、浮き沈みがあるものの、概ね、悪化の一途を辿り、ついには心停止に至ったとみられる

 そして、午前3時30分ころの一時的心停止の後、心臓マッサージなどの救命措置によって心拍や血圧が短期間回復したものの、午後5時15分、Aの死亡が確認されている

 本件の証拠を総合しても、右心室穿孔から死亡に至るまでの医学的・科学的機序を正確に把握し、説明することは不可能であるものの、右心室穿孔から死亡までの事実経過に照らせば、患者の死亡は、右心室穿孔(心タンポナーデ)に伴う心肺機能の著しい低下によってもたらされたものと推認するのが相当である。

↓被告らは

 心タンポナーデ解除後、一時的に血圧や酸素飽和度が上昇したことを捉えて、心タンポナーデはAの死因とは無関係であり、肺塞栓の悪化がAの死因であると反論

↓しかし

 心タンポナーデ解除後、一時的に血圧や酸素飽和度が上昇したとはいっても、本件処理開始前の状態まで心肺機能が回復したと考えるのは無理であるから、被告ら主張のような事実があったとしても、これをもって上記推認を覆すほどの事情とすることはできない

3 損害

(1)慰藉料 2000万円
(2)葬祭料等 200万円
(3)弁護士費用 220万円
(4)逸失利益 なし

 患者は以前から重度の肺塞栓を患っていたこと、今回短時間とはいえ2度も意識を喪失し、救急車により病院に搬送される事態が生じていること等から、もともと家事労働であってもそれ程満足にできる状態ではなかったため

以上

弁護士 池田 実佐子