「膀胱膣瘻」
=膀胱と膣前壁間が交通しているもの
 大部分は膀胱周辺の手術後

*名古屋高判平成2年12月27日

子宮全摘出手術において膣断端を縫合する際膀胱壁の筋層に結紮を掛けて結紮糸して断裂を生じさせた結果、患者が膀胱膣瘻・敗血症となり脳膿症・腎不全を併発して死亡した事案
⇒手技の過失肯定

<判断>抜粋

良性疾患の子宮全摘出術に際し発生する膀胱膣瘻の形成原因

①子宮全摘出術を施行するに当たり、膀胱の一部を剥離する際、膀胱壁を損傷した場合
②腟断端の縫合に際し、縫合糸が膀胱壁を貫通して刺入された場合に、殊に絹糸などの非吸収糸が膀胱内に長期間残存し、これが感染源となって、膀胱壁の壊死が生じた場合
③術後、膣断端部から出血して、血腫が形成され、膀胱壁自身に壊死を来した場合
④腟断端の縫合に際し、膀胱壁が牽引され、断裂を生じた場合

また、子宮全摘出術の場合に、膀胱壁に針を掛けその結果膀胱壁に縫合糸も掛ける可能性(a)腟断端を縫合する際、誤って膀胱壁の筋層に糸を掛けた場合

(b)手術の最後の段階で、後腹膜を縫合する際、誤って膀胱壁の筋層に糸を掛けた場合が考えられることが認められる。

 

術後の熱型からみて、さほど強い炎症所見があったとは、考えられないので、②③の可能性は否定されるべきである。

次に、①の場合については、子宮から膀胱を剥離すること自体によって出血するようなことは、通常ないが、膀胱壁を損傷したとすると、出血し、留置カテーテルからも血尿がでること、この場合の損傷部位は手術野に向かって開放されており、カテーテルが設置されていても、損傷部位から尿がしみ出てくることが、認められるところ、本件第一手術中を通じて、被控訴人伊藤、松原医師をはじめ、その他の手術関与者の誰も、亡倭久子の膀胱壁に損傷を与えたという認識がなかったことが、認められるので、①の可能性も否定すべきである。
そこで、④の場合について検討するに、本件の場合、腟断端の結紮糸が膀胱壁の一部に掛かり、結紮に際し、糸を締め上げるときに、菲薄部が牽引されて断裂が生じた可能性が最も高いことが認められる。そして当審証人山田哲男が証言する、前記(a)(b)二つの場合を比較すると、前記のように亡倭久子の膀胱の損傷部位と腟断端とが極めて近接していることからみて、(a)の場合の方が、可能性が高いというべきである。
以上において検討したところによれば、結局本件膀胱腔瘻は、他にその形成原因が考えられないのであるから、右(二)の場合による形成原因によって生じたものとみざるをえないのであり、かつ、右(a)の場合であると推認されるのである。

しかるところ 本件膀胱腟瘻が右のような原因によって生じたとすれば、悪性疾患の場合であればともかく、本件のように、良性疾患の子宮全摘出術の場合には、腟断端を縫合するに際し、膀胱壁の一部に縫合糸を掛け、結紮するに当たり、膀胱壁に断裂を生じさせるようなことが、あってはならないのは当然であるから、本件膀胱腟瘻は、本件第一手術を執刀した被控訴人伊藤の手技の過失により生じたものといわなけれはならない。原審鑑定人実川正道、同長谷川寿彦も、不可抗力であるか否かの判定は困難であるとの留保を付しながらも、現実に膀胱腟瘻が生じた以上、その原因がなんであれ、生じた結果に対しては、過失があったといわざるをえない、という趣旨の鑑定書を提出している。

もっとも、膀胱の本件断裂部位は、腹腔側(手術野側)から見えない箇所にあり、埋没されるため、インジゴカルミンを注射しても発見しにくいことが認められるが、右の点を考慮しても、本件膀胱の断列が、不可抗力であったということはもとよりできない。

また・・・亡倭久子の膀胱壁の厚さが、同女の待異体質のため、菲薄であったということはできないし、まして、このことの故に、本件膀胱腟瘻が不可抗力により生じたということはとうていできない。

以上