大腸癌 その2の続き

第3 裁判例(東京地裁H19.8.24、判例タイムス1283号216頁)(DukesDの事例)

 東京地裁H19.8.24の裁判例は、「被告病院の担当医師には、患者の訴える症状から大腸癌を疑い、下部消化管検査を実施すべき義務を怠った過失があったと認められ、この過失がなければ、大腸癌を発見することができ、化学療法によって患者の生存期間を延長できた相当程度の可能性があったとして、原告らの債務不履行に基づく損害賠償請求の一部が認容された」事例です。

 この裁判例は、①下部消化管検査を実施すべき義務を怠った過失と②患者の生存期間を延長できた相当程度の可能性があったことを認めた点に大きな意義があります。また、その他にも、③「医師は、診察に訪れた患者に他科領域における診察ないし検査が必要な状態にあると認められる場合には、当該患者に対し、他科の診察を勧める義務を負うが、患者の状態に照らし、緊急性が認められる場合など特段の事情のあるときを除き、他科の診察を勧めれば足り、それ以上に、患者の転医、転科措置をとるまでの義務はない。」と他科診察を勧める義務についても一定の判示をしています。

①について

 「亡花子は、平成14年5月17日に被告病院の外科を受診し、同日付の問診表に、血便、下痢、便柱の狭小、腹部の張り、体重の減少といった症状に○を付するとともに、丙山医師に対し、軟便、肛門の腫れ、出血を訴えているのであって、同医師が亡花子にこれらの症状があることを認識していたことは明らかである。これらの症状は、大腸癌の典型的な症状であるから、外科担当医である丙山医師には、亡花子に内痔核の存在を認めたとしても、直ちに大腸癌を疑い、下部消化管の検査を実施(予定)すべき注意義務があったというべきである。」

 この判示で重要なことは、第2の(1)の症状で述べた症状があり、医師が認識していた場合には、検査をすべき義務があるという点です。さらに、同様の症状がある、内痔核の存在を認めたとしても、検査義務が認められている点です。

②について

 「仮に丙山医師が平成14 年5 月17日の時点で大腸癌を疑い、直ちに大腸内視鏡等の検査を実施(予定)したとしても、亡花子が死亡した平成14 年8 月20日の時点においてなお生存していた高度の蓋然性があったと認めることはできず、丙山医師の前記注意義務違反(過失行為)と亡花子の死亡との間に因果関係があるということはできない。」「丙山医師が平成14 年5 月17 日の時点で大腸癌を疑い、直ちに大腸内視鏡等の検査を実施(予定)していたならば、亡花子が平成14 年8 月20日の時点においてなお生存していた相当程度の可能性はあったものと認めるのが相当である。」

 この判示は「患者の生存期間を延長できた相当程度の可能性があったこと」にとどまり、過失と死の間の因果関係までは認められていません。これが意味することは、末期患者であったことから、過失がなければ、死亡しなかったという高度の蓋然性は認められないが、相当程度の可能性はあるということを示しています。法律用語で説明すると、過失により生命が侵害されたというのでなく、生きる(延命)という期待権を侵害されたということになります。

 もっとも因果関係については平成14年当時の医療水準で判断をされていることから、医療水準が進んだ今日においては、死亡との因果関係まで認められる可能性もあります。

③について

 他科診察を勧めるだけでよいのか。他科診察させることまで必要なのかについて判断を示しています。この判断は重要ですが、大腸癌とは関わりの事項で、一般的な事項なので別の機会に書きます。

第4

 前記裁判例はDukesDの事例です。DukesDでさえ、相当程度の可能性が認められていることから、DukesA~Cであれば、生存率も高いことから、高度の蓋然性は認められる可能性もあります。

 また、大腸癌は遠隔転移をしていなければ、十分根治治療の可能性もあります。したがって、血便等の自覚症状があれば、すぐに病院に行けば、対処が可能な病気です。

以上