証拠保全について

1 定義

 証拠保全とは、民事訴訟法234条によって認められた手続であり、本来ならば本案訴訟の手続ないで証拠調べを行うのが原則であるところ、本案訴訟で証拠調べが行われるときまで待っていたのでは、証拠調べが不可能あるいは困難になるおそれがある場合に、本案訴訟の手続外であらかじめ証拠調べを行い、将来その結果を利用できるようにするための手続である。

2 趣旨

訴えを提起して、万一カルテなどの医療記録が改ざん・廃棄されてしまっては、本案訴訟において治療に過誤があったことを立証することは非常に困難になるため、それを防止する点にある。

3 機能

将来の訴訟に備え、証拠を保全する機能(証拠保全機能)が第一義的なもので、相手方が所持する証拠が事前に開示されるという機能(証拠開示機能)は付随的な機能であると考えるべきである。

4 要件

(1)条文

「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるとき」(民訴法234条)

(2)内容

ア 証拠保全の事由は、保全の理由と必要性である。

イ 保全の理由
事実経過と法的責任を記載することが必要であるが、この時点で事実経過や相手方の法的責任が明確なことは稀であるから、それほど詳細なものは必要ない

ウ 保全の必要性
これを基礎づける事実を具体的に記載しなければならない。
単に改ざんのおそれがあるという記載だけでは不十分で、診療の開始から事故後の交渉を含めて、「この医師ならば診療録の改ざんもしかねない」という不信感を抱かせるに足りる医師の具体的言動等を記載する必要がある。

具体的には、当該医師に改ざんの前歴があるとか、当該医師が、患者側から診療上の問題点について説明を求められたにもかかわらず相当な理由なくこれを拒絶したとか、前後矛盾ないし虚偽の説明をしたとか、その他ことさらに不誠実又は責任回避的な態度に終始したことなど

5 メリット・デメリット

(1)メリット

ア カルテ等の改ざん防止

イ 患者本人がカルテ等の自己開示請求をした場合、診療記録に不足があったり、検査データや画像記録等を入手していなかったりなど、必要な資料を入手できていない場合があるところ、証拠保全をすると、漏れなく、必要な資料を入手可能

ウ 証拠保全で入手した診療記録と裁判で医療機関側から提出された診療記録を比較したところ、記載に違いがあったり、証拠保全で提出されなかった資料が出てくることがある。又、証拠保全において本来あるべき資料がなかった場合、その旨を記載した検証調書が有利な証拠になる場合もある。

(2)デメリット

患者本人によるカルテ等の自己開示請求をする場合に比べて費用と時間がかかる

6 その他

(1)申立書に記載すべき事項、添付すべき書類

ア 申立書に記載すべき事項

ア)表題
「証拠保全申立書」と記載

イ)申立をする裁判所
申立書の提出先の裁判所名

ウ)年月日
実務上、申立書の提出日を記載

エ)申立人またはその代理人の記名押印
当事者の表示とは別に、申立書の作成所の作成者が記名押印

オ)申立人、代理人、相手方の氏名・住所等(郵便番号を含む)、送達場所
「相手方」は、訴え提起前の場合には将来被告となるべき者、訴えの提起後の場合には申立人の反対当事者であり、検証物等の所持者ではない。
当事者が法人の場合は、その名称(商号等)、代表者名、主たる事務所(本店等)の所在地を記載

カ)申立人またはその代理人のTEL/FAX番号
裁判所との連絡のために記載

キ)申立ての趣旨
いかなる内容の証拠保全を求めるかの結論の記載

ク)申立ての理由
・証明すべき事実(法180条1項、規則99条1項)
・証拠保全の事由(「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」(法234条))

ケ)疎明方法

コ)附属書類

イ 申立書に添付すべき書類

ア)疎明資料の写し
裁判所に1通、相手方一人につき各1通(規則137条1項)
具体的には、申立人の陳述書や医学文献の提出や通院歴等を示す書面(診察カード、診断書等)等

イ)訴訟委任状
代理人が申し立てる場合に必要(規則23条1項)
申立人が未成年者の場合は、法定代理人の権限を証明するための戸籍謄本が必要であり(規則15条)、代理人への委任状も法定代理人名義の委任状が必要

ウ)資格証明書

ウ その他

申立手数料として必要な印紙500円分

(2)裁判官との面接期日における注意点

ア 執行官送達の場合、特定の時間に送達が可能だが、郵便だと送達から検証までの時間が開きすぎてしまう可能性があるので、執行官送達を選択した方がよい
イ 検証結果の記録化の方法について尋ねられるが、プロのカメラマンを同行させるならばそのように伝えればよい
ウ 申立書の訂正等を求められることもあるから、職印は忘れずに
エ 疎明資料のうち、原本があるものについては、面接時に原本確認をするので、原本を忘れないように
オ 相手方の表記は、法人登記がなされていないならば個人名でもよいが、送達の際にわかりにくいので、病院名を付して「○○病院こと個人名」との表示にすべき
カ 提示命令については現場での最後の説得材料に使うこともあるので、提示命令の発令を証拠保全決定の段階で留保すればよい
キ 申立人は、事前に病院の休診日、診療時間等を調べたうえで、面接に臨むようにすべきである

(3)証拠保全の実施段階における注意点

ア 修正箇所や消し跡があるなどの場合については、意味のありそうなものや写真撮影等のみでは修正箇所が明白にならないような場合には、調書化しておくことが必要である
イ プライバシー保護の必要があることを考えると、付箋等を準備していく必要がある。調書で明らかにしておけば、付箋で隠した部分に記載されていたことも必要な範囲でわかる

以上