薬の投薬をめぐる医師等の注意義務には、

 (1)投薬前の注意義務、
 (2)投与する際の注意義務、
 (3)投薬後の注意義務

 の3つに区分される。

(1)投薬前の注意義務

① 注意義務の内容

 医師は投薬にあたり、患者の状態を適切に把握し、薬の適応の有無について判断するとともに、問診によりアレルギーの有無や既往歴等を聴取し、禁忌や慎重投与にあたるか否かを把握すべき注意義務がある。

 また、医師には、特別の事情がない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、当該薬剤の副作用などについて説明すべき義務(投薬前の説明義務)がある。

② 参考裁判例

「医師は、患者の治療のため薬剤を処方するに当たっては、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、処方する薬剤の内容、当該薬剤の副作用などについて説明すべき義務があるというべきである。
そして、イトリゾールには重大な副作用として催奇形性作用があり、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与してはならないとされているのであるから、被告は、原告に対し、イトリゾールを処方するに当たって、原告が妊娠している可能性がないことを確認し、服用中は妊娠しないようにすべきであることを指導した上で、イトリゾールの催奇形性作用について説明すべき義務があったというべきである。」(大阪地判平成14年2月8日判タ1111号163頁)

(2)投与する際の注意義務

① 注意義務の内容

 投薬の際には、添付文書の記載を遵守し、適正量を適正な期間、投与すべき注意義務がある。

 さらに、(上記義務に従わず)医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がないかぎり、当該医師の過失が推定される。

 医師が添付文書違反の投薬を行う場合は、適応の有無、副作用を上回る治療効果の有無等について、医師により慎重な判断が求められることになる。

② 参考裁判例

「医師が医薬品を使用するに当たって右文章に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。」(最判平成8年1月23日判時1571号57頁)

(3)投薬後の注意義務

① 注意義務の内容

 投薬後は、薬の治療効果のみならず、副作用の有無を判断するためにも、患者の状態について経過観察する義務がある。

 また、抗菌剤や造影剤のようにアナフィラキシーショックを起こすおそれが高い薬剤を投与するときには、投薬後の経過観察のみならず、あらかじめ、ショック発症後に迅速かつ的確な救急処置を執ることができるような医療態勢を整えておくべき義務もある。

② 参考裁判例

「開業医が顆粒球減少症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院又は他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務がある」(最判平成9年2月25日判時1598号70頁)

「薬剤の副作用と疑われる発しん等の過敏症状が生じていることを認めたのであるから,テグレトールによる薬しんのみならず本件薬剤による副作用も疑い,その投薬の中止を検討すべき義務があった。すなわち,過敏症状の発生から直ちに本件症候群の発症や失明の結果まで予見することが可能であったということはできないとしても,当時の医学的知見において,過敏症状が本件添付文書に記載された本件症候群へ移行することが予想し得たものとすれば,本件医師らは,過敏症状の発生を認めたのであるから,十分な経過観察を行い,過敏症状又は皮膚症状の軽快が認められないときは,本件薬剤の投与を中止して経過を観察するなど,本件症候群の発生を予見,回避すべき義務を負っていたものといわなければならない。」(最判平成14年11月8日判タ1809号30頁)

「Yが,薬物等にアレルギー反応を起こしやすい体質である旨の申告をしているAに対し,アナフィラキシーショック症状を引き起こす可能性のある本件各薬剤を新たに投与するに際しては,Yには,その発症の可能性があることを予見し,その発症に備えて,あらかじめ,担当の看護婦に対し,投与後の経過観察を十分に行うこと等の指示をするほか,発症後における迅速かつ的確な救急処置を執り得るような医療態勢に関する指示,連絡をしておくべき注意義務がある」(最判平成16年9月7日判時1880号64頁)