1 事案

親に1時間ほど乳児(生後約1か月の監護を頼まれた看護師が乳児の監護不十分であったため、その乳児は痰貯留により窒息して、現在は意識不明の状態である。

2 判例調査

以下では、参考となる裁判例の検討を行う。

① 東京高判H14.1.31

事案

入院していた一歳の幼児に看護婦がコップ状の玩具を与えていたところ、これによって幼児が窒息して重篤な後遺障害が残った事案

裁判所の判断

看護師の義務内容(不法行為)
 一般に看護婦は、患者に対する療養上の世話又は診療の補助を業とするものであるから、療養の世話や診療の補助業務には、入院患者の病状や身辺に注意を払い、患者の身体の安全や健康を守るべき注意義務が含まれると解される。(看護師の一般的な注意義務)

 したがって、丙川看護婦は、患者の担当看護婦として、本件病室内において患者が安全に療養生活を送れるように、患者の病状の変化、進行及び患者の身の回り、環境を監視し、その異常や危険な兆候を早期に発見し、その身体の安全を守る義務があると解すべきところ、本件病室に入院していた患者は、自らその危険を報知する能力が未だ備わっていない幼児であったから、丙川看護婦は、看護婦としての上記義務を果たすためには、自ら訪室して控訴人二郎の安全を監視すべきであったということができる。(幼児の担当看護師の義務を加重するための論証)

② 東京地判H10.3.23

事案

病院で出生し3日目に心停止及び呼吸停止に陥った男児について、右事故の原因は乳幼児突然死症候群(SIDS)ではなく、看護婦によるうつぶせ寝による窒息であるとした事例

裁判所の判断

<義務内容>

嘔吐する可能性の高い新生児をうつ伏せ寝て寝かせる場合には、担当の助産婦は、当該新生児が低酸素状態となって嘔吐し、吐乳を吸引することのないよう、新生児が頭部の回転により容易に鼻口の圧迫状態から逃れられるような(頭部の運動を妨げないような)形状、材質の寝具を使用すべき注意義務があり、かつ、寝かせた後も、頭部の運動により鼻口が圧迫された状態となっていないか また、吐物による気道閉鎖が生じていないかを継続的に観察すべき注意義務があるものというべきである。
特に、被告病院では、原告らが主張するとおりのうつ伏せ寝についての注意事項を記載した小冊子を産婦に配っているのであるから、助産婦は、うつ伏せ寝にする場合は右のような注意をすべきことを十分に知っていたものと認められる。

③ 京都地判S50.8.5

事案

乳児の保育契約は準委任契約であり、保育園は善良な管理者の注意を以て保育の任に当るべきであるが、乳児が強い下痢状態にあるのに母親が保母にそれを告げず特別な依頼もなさなかつたため、保育園の保母がしばらく乳児から眼を離した時、乳児が吐いたものを吸い、それが声門部を閉塞させ窒息死させた事案

裁判所の判断

保育士の義務違反

被告は一郎の保育を引受けたのであるから準委任の受任者として善良な管理者の注意を以て保育の任に当るべき義務があったことは当然であり、一郎は死亡当日迎えに来た原告花子が傍へ来る少し前の頃吐物を吸引しそれが声門部にひっかかり窒息死したものであるから、もしこの吐瀉をした時傍に保母がおり直ちに適当な処置をとっていたらこの事故を防止し得たのに折悪しく保母のNもMも傍におらずこの処置をとることができなかったといわねばならないが当時原告らが保母に一郎の健康状態やT病院での診療状況を具さに告げて特別扱いを頼んでいた事実がなくかつこうした集団保育の場所で保母に乳児から片時も眼を離すなというのは難きを強うるものである。一郎が物を吐いた時のしぱらく前まで保母のMが一郎をひる寝のためベッドヘ移す等の世話をしていたがその後しばらく他の用事で傍を離れたためMもNも一郎が物を吐いたのを発見できず適切な処置をとれなかったとしても同人ら従って被告にこれを予見し得た過失があるというのは相当でない。乳児の体力は弱いが満一才二ケ月ともなればたとえ物を吐いてもこれを吸引して窒息死を起すのが当然とはいえず人間の本能で体位を動かして自衛することが多いのに一郎は前記のごとく消化不良が多く死亡日の五日前には水様の下痢が四回もあり気管支炎を恵って体力がなかったので健康児しか預かれないという被告の方針からいえばむしろ休ますべきであつた健康状態にあったためこうした事故が発生したものといえるからこれを以て被告の予見し得た事故でありそこに過失があるというのは相当でない。

以 上