今回は、医療過誤があった場合に、医師や医療機関に民事上どのような責任を追及できるのか、その法律構成にはどのようなものがあるかについてお話します。

 医療過誤の被害を受けた場合の民事上の責任追及の法的構成としては、患者との間の診療契約に基づく債務不履行責任(民法415条前段)と不法行為責任(民法709条)があります。

 病院等の開設主体である医療機関は、契約当事者ですので、債務不履行責任及び不法行為責任に基づく損害賠償義務の双方を負います。

 医療機関に勤務する医師は、契約の主体ではなく病院等の履行補助者の立場にあります。そのため、不法行為責任に基づく損害賠償義務のみ負います。もっとも、開業医の場合は、医師個人が契約主体として不法行為責任に加え債務不履行責任も負います。

 そして、勤務医個人に不法行為が成立する場合、医療機関には使用者責任(715条1項)も成立します。

医療機関に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権は競合し、いずれか一方をあるいは双方を(選択的又は予備的に)請求するか否かは被害者が自由に選択することができます。

 では、被害者にとってこの2つの法律構成に優劣はあるのでしょうか。

 不法行為責任では、①権利侵害②故意又は過失③損害の発生とその額④①と③の因果関係のすべてを請求者が立証しなければなりません。他方、債務不履行責任は、①債務不履行の事実②損害の発生とその額③①と②の因果関係を原告が立証し、④帰責性のないこと(故意又は過失の不存在)を義務者の方で立証しなければなりません。

 とすると、被害者としては、債務不履行責任構成で請求する方が有利なように思えます。かつてはそのような見解もありました。

 しかし、診療契約は事実行為の委任として、準委任契約(民法656条)と解されており、医療行為は行為債務として、完治の結果までを義務の内容に含むものではありません。そのため、被害者は①債務不履行の事実として、善管注意義務(民法656条、644条)違反の内容、つまり医師に期待される客観的な注意義務違反を主張立証しなければならないこととなります。これは、不法行為における②過失の立証と重なってきます。そしてこの点が立証されれば、④帰責性のないことはあまり問題となりません。

 また他方で、不法行為構成の場合には知識や情報の偏在の是正の観点から、一定の場合に被害者の立証責任が事実上軽減されています(最判平成8年1月23日など)。

 したがって、立証の点での優劣にあまり違いはありません。

 他に挙げられる違いとしては、遅延損害金の起算点が不法行為責任の場合は不法行為時とされ(最判昭37.9.4、最判昭58.9.6)、債務不履行責任の場合の請求時(最判昭55.12.18、民法412条)よりも早い段階で認められます。また、被害者が死亡した場合、不法行為責任によると遺族固有の慰謝料請求権も生じます(民法711条)。これらの点では不法行為構成の方が有利といえます。

 もっとも、時効期間に関しては不法行為責任の場合は「損害及び加害者を知った時から」3年(民法724条前段)、債務不履行責任の場合は10年であるため(民法167条1項)、不法行為責任の時効期間が経過している場合は、債務不履行責任を追及することになります。なお、医療過誤の場合、被害者が医師らの法的責任を判断することは困難ですから、裁判例上時効の起算点はケースバイケースで柔軟に捉えられています(例えば、カルテ等入手時(大阪高判平成17.9.13)など)。

 以上によると、時効で不法行為責任に基づく損害賠償請求権が消滅していない限り、被害者としては不法行為責任構成をあえて外す理由はないと思われます。実務上は、双方の責任を選択的あるいは予備的に併合して請求するケースが多いようです。

弁護士 池田実佐子