前回の記事はこちら:第3回「先駆的医療を行う際の説明義務について➀」

4 先駆的医療を行う際の説明義務について➁

(1) 先駆的医療を実施した後の説明義務

 先駆的医療を実施した後の説明義務とは、顛末報告義務を意味します。顛末報告義務は、準委任契約(民法656条)とされる医療行為の経過及び結果の事後の報告義務のことをいい、民法645条を根拠としています。この義務は、先駆的医療に限らず、医療行為一般に認められる説明義務です。顛末報告義務については、患者が死亡した場合に家族に対する報告義務として認められるか否かといった点、自己決定権との関係といった点が論点とされますが、本記事では割愛します。

 顛末報告義務としていかなる内容の説明を行うかについては、悪しき結果が発生していない場合や、療養指導等の必要性がない場合は、簡単な医療行為の結果を説明するだけで足りると解されます。

 一方、療養指導の必要性がある場合は、患者の症状の増悪を防止する観点から、当該療養指導の根拠、当該療養指導を怠った場合に患者に生じ得るリスク等について、一般的な患者が療養指導の必要性を理解できる程度に説明する義務があると解されます。療養指導の代表的な裁判例としては、最判H7.5.30(判タ897号64頁)があげられます。同判決は、医師が未熟児である新生児を黄だんの認められる状態で退院させ右新生児が退院後核黄だんにり患して脳性麻ひの後遺症が生じた場合につき医師の退院時における説明及び指導に過失がないとした原審の判断に違法があるとして、事件を原審に差し戻したもので、『何か変わったことがあれば医師の診察を受けるようにとの一般的な注意を与えたのみで退院させている』医師の『措置は、不適切なものであったというほかはない』としています。同判決は、事例判断ではありますが、医師の療養指導についての説明の水準に関し参考になります。

 また、不幸にも悪しき結果が発生した場合についても、何故その結果が発生してしまったのか、経過及び結果の説明義務があると解されます。
 その説明義務に違反した場合、患者は、義務違反により精神的苦痛を被ったとして、慰謝料の請求をすることができる場合があります。
 なお、あくまで私見ですが、悪しき結果が発生した場合において、医療機関が殊更事実と異なる経過及び結果の説明を行い、患者の慰謝料請求が認められる場合、その慰謝料は、医療機関側が付保している保険でカバーされるべきではない、と考えています。このような医療機関の虚偽説明は、損害拡大防止義務に反していることから保険でカバーされるのは公平ではありませんし、保険でカバーされないことにより、事実上、医療機関に事実に合致した説明をすることを強制する、という効果もあるからです。

(2)

 次回は、先駆的医療(未確立療法)が存在することの説明義務について検討したいと思います。

先駆的医療に関する諸問題 シリーズ一覧

第1回「先駆的医療とは」
第2回「先駆的医療実施の要件について」
第3回「先駆的医療を行う際の説明義務について➀」
第4回「先駆的医療を行う際の説明義務について➁」
第5回「先駆的医療(未確立療法)が存在することの説明義務」