前回の記事はこちら:第1回「先駆的医療とは」

2.先駆的医療実施の要件について

(1) 他の治療に対する優越性
 ―先駆的医療は何故実施されるか

 そもそも、先駆的医療は医療水準として確立したものではないので、その結果(疾患を治癒させることができるのか、逆に増悪させるのか、全く効果がないのか、副作用はどうか等)について、ある程度予測はできたとしても、その予測は確実なものとはなり得ません。先駆的医療を受ける患者には、先行き不透明なリスクがあります。

 それにも関わらず、あえて患者が先駆的医療を受ける動機・必要性としては、治療を必要とする疾患があることを前提に、(i)他に有効な治療がない、(ii)既存の治療よりもメリットがある(開腹手術が内視鏡に取って代わられたように身体への侵襲が低い等)、などが想定されます。先駆的医療が医学の進歩に有益であることは否定できないものの、医療は前提としてそれを受ける患者のためになされるものである以上、上記(i)、(ii)つまり他の治療に対する優越性が、先駆的医療実施の要件となると考えられます。

(2) 先駆的医療をすることの合理性
 ―人に対して実施可能なほどその先駆的医療に関する研究が成熟しているか

 先駆的医療に上記の先行き不透明なリスクがある以上、人に対して先駆的医療を実施するにあたっては、そのリスクを軽減する措置が行われてきたか、という点も検討を要します。生理学的・病理学的根拠に基づいているか、基づいているとしても、動物実験等で十分な有効性の裏付け根拠が採られているか、等が問題になります。すなわち、先駆的医療をすることの合理性が、先駆的医療実施の要件となると考えられます。

 また、上記合理性の審査は、先駆的医療を実際に行う医師限りの判断によって行われるべきではなく、組織としての医療機関における実質的な判断が行われるべきといえます。この点、平成15年7月30日厚生労働省告示第255号「臨床研究に関する倫理指針」では、「臨床研究」(同3頁)を行う場合における倫理委員会における審査等の手続が定められています(16頁)。上記「臨床研究」の定義にあてはまる場合、同指針の定める手続を行っているか否か、という点も、先駆的医療をすることの合理性判断にあたって重要になると考えられます(判断過程の合理性審査)。また、上記「臨床研究」の定義にあてはまらなくても、それに類する場合には、同指針に準じた手続により実施する医療行為の合理性を判断すべきといえ、その手続判断過程の合理性が、先駆的医療をすることの合理性判断にあたって重要になると考えられます。

(3) 実施機関の相当性

 そもそも、先駆的医療を行う医療機関が、最先端の医療を行うだけの物的設備・人的設備がないのであれば、先駆的医療を行う資格がないことになります。そこで、実施機関の相当性が、先駆的医療実施の要件になると考えられます。

 この実施機関の相当性判断にあたっては、(i)先駆的医療そのものを行うことについての相当性と、(ii)先駆的医療実施後発生し得るリスクに対処することについての相当性の双方について検討を要すると考えらえます。(ii)については、前提として、先駆的医療実施後通常発生し得るリスクに関する調査義務を履行したか否かが問題となります。また、先駆的医療を実施する医療機関そのものが、その後発生し得るリスクに対処できない場合、直ちに実施機関の相当性に欠けると判断されるべきではなく、通常想定し得るリスクが発生した後、リスクに応じた転医先を予め確保していたか、という転医義務類似の判断を行い、それに違反する場合に、実施機関の相当性が欠ける、という結論になることが穏当です。

(4) 患者に対する適応性

 患者に対する適応がないものについて医療行為を行うことはできないことはいうまでもありません。患者に対する適応性が先駆的医療実施の要件になります。

(5) 患者の同意

 先駆的医療は、一般的に行われている医療行為ではないことから、先駆的医療実施に関して患者の同意が要件となります。
 この同意を得る前提として、患者に対し、先駆的医療の目的、内容、リスク、リターン等について具体的な説明を行ったかが論点となります(説明義務の履行)。

 次回は、この説明義務について検討したいと思います。

先駆的医療に関する諸問題 シリーズ一覧

第1回「先駆的医療とは」
第2回「先駆的医療実施の要件について」
第3回「先駆的医療を行う際の説明義務について➀」
第4回「先駆的医療を行う際の説明義務について➁」
第5回「先駆的医療(未確立療法)が存在することの説明義務」