1.医療過誤と損害

 医療過誤が発生し、被害者(患者)が負傷したり死亡したり後遺障害が残存し被害者側(患者側)が加害行為者である医師や医療機関に対し損害賠償を行った場合、どのような金額を損害として請求することとなるのでしょうか?

 実務上、加害行為がなかったとしたらあるべき利益状態と加害行為がされた現状の利益状態との差額が「損害」として認められます(「差額説」と呼ばれる考え方です。)。

 このような説明では非常に抽象的であるかと思いますが、具体的にイメージしやすい損害項目を挙げるとすると、医療過誤(加害行為)があったことにより支出が必要となった治療費、仕事を休んだことによる給与の損失(休業損害)、加害行為による精神的損害(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)などが挙げられます。

 その他の重要な損害項目として、死亡や後遺障害の残存により失われた将来得られるはずであった逸失利益(後遺障害逸失利益・死亡逸失利益)があります。

 しかし、逸失利益は将来の消極的利益(加害行為が無ければ得られるはずであった利益)であり、また、医療過誤がなかった場合に想定された生存期間や後遺障害による労働能力の逸失率などの認定の過程において仮定的な要素あるいはフィクションを前提として算定されるため裁判や示談において大きな争点となることが少なくありません。

2.損害の算定方法

 実務上、医療過誤による損害を算定するにあたっては主に交通事故による損害賠償額の算定基準を参考にして算定されることが多いです。

 ただ、医療過誤の事案では交通事故の場合とは異なり被害者(患者)にもともと既往症となる疾病が存在している場合や被害者(患者)の余命が長くない場合も少なくありませんので、実際のところは交通事故における損害の算定基準を参考にしつつ医療過誤に特有の個々の事情を詳細に検討して損害の算定が行われます。

 前述のとおり、被害者(患者)にもともと既往症となる疾病が存在している場合や被害者(患者)の余命が長くない場合も少なくありませんので、特に死亡や後遺障害の残存による逸失利益(死亡逸失利益・後遺障害逸失利益)などの算定においては交通事故の被害者と同一に論じることが適切ではない事案もあり慎重な検討が行われることが少なくありません。

 もっとも、医療過誤を起こした医療機関などにおける療録等の隠ぺいや改ざんを含む医療過誤の隠ぺいがあった場合などには慰謝料を増額する要素となることもあり、診療記録の改ざんにつき慰謝料の増額事由にとどまらない独立の不法行為と認定した裁判例もあります(甲府地判平成16年1月20日判決:判時1848号119頁)。

 次回の記事では、医療過誤事件に特有の損害の減額要素となる事由について述べたいと思います。

弁護士 藤田 大輔