1.医師と弁護士における「因果関係」のとらえ方の違い

 前回は、協力医に意見聴取を行う場合の工夫につき書きましたが、今回は筆者の経験なども踏まえ具体的にお話したいと思います。
 (前回の記事はこちら:医療調査について(2)

 前回の記事において、筆者の経験としては「過失(医療行為の誤り)」の概念よりも「因果関係」、つまり、ある医療行為がされたこと(あるいはされなかったこと)が原因で患者が被害を被ったのかという点の認識において、医師と弁護士を含む法律家との間に大きな違いがあるように思われることを書きました。

 法的な概念としての因果関係としては行為と損害(結果)との間に「高度の蓋然性」が認められる場合に肯定されるとされます。

 「高度の蓋然性」が認められる場合とは、一般的に7割~8割程度の関係性が認められる場合を指すと説明されることが多いです(もっとも、筆者としては、因果関係の判断基準に関するリーディングケースとなった最高裁判例(東大ルンバール事件判決)の正確な理解としては「高度の蓋然性」は因果関係に関する立証対象であり立証程度の問題とは区別して論じられるべき事項と考えますので、上記説明は不正確と考えますが詳述は割愛します。)。

 しかし、医師の感覚としては、わずか数パーセント程度でも他の原因が結果の発生に影響を与えた可能性がある場合には因果関係の存在が疑わしいと考える傾向があるように思われます。

 これは、医学を含む自然科学の世界では物事の厳密に思考することに原因があるように思われます。

 他方で、法的な検討としては一定の行為から生じた結果を行為者に帰責させること(損害賠償の支払い義務を負わせること)が社会的に相当といえる関係にあるかどうかいう観点から検討されるためこのような違いが生じるのではないかと考えられます。

2.医師に対する質問を行う際の工夫

 前述のとおり、医師は因果関係につき弁護士を含む法律家より厳密に思考する傾向があると考えられるため、医師に対し「この医療行為からこの結果(例えば患者の死亡)が生じたという因果関係が認められるか?」という抽象的な質問をすると、「必ずしもそうとはいえず他の可能性も考えられる。」という内容の回答がされることが多いように思われます。

 しかし、そのような内容の回答をした同じ医師に対し「他の原因(特殊事情)が介在しない一般的な経過によればどうか?」、「他の原因(特殊事情)が結果の発生に寄与したことが読み取れる具体的な情報があるか?」という内容の質問を行うと全く逆の結論が返ってきたことがありました。

 このことは、医療調査の段階だけでなく裁判所における鑑定手続においても留意しておくべき点であると思います。

 筆者も鑑定手続において思いのほか痛い思いをした経験があり、以降はこの点を非常に気をつけて意識するようになりました(この点も詳述すると専門的になりすぎるので割愛します)。

 実務的な色彩の強い内容の記事になってしまいましたが、一般の方のみならず患者側で活動をされている弁護士の先生方にも参考にしていただければ幸いです。

弁護士 藤田 大輔