1 はじめに

 脊髄を損傷すると、その後感染症に罹患し、敗血症によって死亡することが少なくない。本稿では、脊髄損傷とその典型的な予後について、概略を書き留めておきたい。

2 脊髄損傷とは何か

(1)定義、分類

 脊髄損傷は、脊髄を保護する役割を担っている脊椎が鈍的外力により損傷されることによって発生するが、脊髄が損傷されると、症状として種々の麻痺を呈する。

 麻痺は、完全麻痺と不全麻痺に大きく分けられる。完全麻痺では、損傷部以下の運動、知覚が脱失する。他方、不全麻痺は損傷の程度、高位によって様々な麻痺を呈する。基本的に、頸髄損傷では四肢麻痺を呈し、胸腰髄損傷では対麻痺(両下肢の麻痺)を呈する。

 麻痺の評価法としては、下表に示すFrankel分類が用いられることが多く、簡便で有用である1

Frankel分類
A. complete損傷高位以下の運動知覚完全麻痺。
B. sensory only運動完全麻痺で知覚のみある程度温存。
C. motor useless損傷高位以下の筋力は少しあるが、実用性はない。
D. motor useful損傷高位以下の筋力の実用性はある。補助具の要否に関わらず、歩行が可能である。
E. recovery or normal筋力低下がなく知覚障害もない。反射の異常はあってもよい。

(2)症状、検査、診断

ア 全身症状としては、循環、呼吸に注意すべきである。
 まず、頸髄損傷及び上位胸髄損傷では、交感神経が遮断され副交感神経優位になるため、心筋収縮力は低下し、心拍出量の低下、徐脈、血圧低下が起こり、血管運動神経の遮断による血管拡張はこれを助長する。
 また、頸髄損傷では特に呼吸障害に注意すべきである。損傷部位が高位になるほど呼吸障害の程度は重篤になる。
 さらに、脊髄損傷では、膀胱直腸障害は必発であり、軽症例を除けば急性期はほぼ尿閉の状態である2

イ ある脊髄外科医によれば、一般に、下肢または四肢の完全麻痺(Frankel A)がいったん発生すると有意義な回復は非常に困難であるから、脊髄障害を疑う場合には原因検索のため直ちにMRI検査を行うべきである。

(3)治療

 別の脊髄外科医によると、研修医が脳外科で叩き込まれる原則の一つに「対麻痺12時間」というものがあり、これは、急激な脊髄圧迫病変による高度の麻痺が生じた場合には、半日以上放置してから除圧術をしても改善を期待できないから、半日置かずに緊急手術をしなければならないと戒めるものであるという。

(4)合併症、予後

 ある脊髄外科医によれば、完全脊髄損傷の場合、その損傷レベルにも左右されるが、頸髄や上位胸髄損傷では、気道感染(肺炎)、尿路感染、褥瘡3感染が必然の合併症であり、敗血症に進み死亡するのが通常の経過である。高齢者では特にこれらの合併症の発生率が高い。

 例えば、ある論文4は、76歳以上の脊髄損傷患者の34%が肺炎を合併発症した旨を記すとともに、脊髄損傷患者の死因の第1位が肺炎である旨を記している。

3 敗血症、敗血症性ショックとは何か

(1)定義、病態

 敗血症とは、感染症の存在の下に全身性炎症反応症候群(SIRS5)を伴う病態をいう6
 一般細菌による敗血症の場合、宿主の免疫状態の低下などの基礎疾患を背景として、重症感染症から敗血症へと移行する7
 そして、敗血症が増悪し、輸液療法によっても血圧90mmHg未満あるいは正常血圧より40mmHg以上低下した場合を、敗血症性ショックという8

(2)敗血症の感染巣

 敗血症となりやすい感染部位は、①肺、②腹腔内、③尿路、④皮膚である9
 上記のとおり、脊髄損傷患者の典型合併症が、気道感染、尿路感染、褥瘡感染であることに鑑みれば、脊髄損傷患者が敗血症に罹患するリスクの高さをよく理解することができる。

(3)予後

 敗血症の死亡率は約30パーセント、敗血症性ショックの死亡率は約50パーセントにも及ぶほど予後が不良であり、ICUでの死亡の主因となっている10

4 脊髄損傷患者の典型的な予後

 以上を踏まえ、脊髄損傷(完全型)患者の予後の典型例を図解すると、次のようになる。

2015102105-2

1 「整形外科専門医になるための診療スタンダード1脊椎・脊髄」(羊土社、2008)222、223頁
2 「整形外科専門医になるための診療スタンダード1脊椎・脊髄」(羊土社、2008)224頁
3 いわゆる「床ずれ」である。
4 「リハビリテーション医学Vol.37 No.5」(医学書院、2010)286頁
5 SIRSとは、体温38℃超又は36℃未満、心拍数90回/分以上、呼吸数20回/分以上、及び④白血球数12、000/μL以上又は4000/μL以下という4項目のうち、2つ以上を満たすものをいう(「今日の治療指針2011年版」(医学書院、2011)・敗血症)。
6 「今日の治療指針2011年版」(医学書院、2011)・敗血症
7 「内科診断学第2版」(医学書院、2008)・敗血症
8 「今日の治療指針2011年版」(医学書院、2011)・敗血症
9 「Surviving ICUシリーズ 敗血症治療 一刻を争う現場での疑問に答える」(羊土社、2014)24頁
10 「レジデントノートVol.11 No.8(11月号)」(羊土社、2009)1120頁