1 はじめに

 肩関節は、人体で最も可動域の大きい関節である。
 そのため、転倒や転落、スポーツの接触プレーなどによって脱臼することもしばしばである。転倒などにより肩関節が外転・外旋、あるいは水平伸展された際に、前方の関節包が破れるか、関節唇が関節窩から剥離して、上腕骨骨頭が梃子の作用で前方へはね出されることによって起こる病態を、(外傷性)肩関節脱臼(前方脱臼)という(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)725頁)。なお、肩関節脱臼には、前方脱臼のほかに、後方脱臼があるが、殆どが前方脱臼である。
 また、転倒などによる衝撃が強い場合には、脱臼すると同時に、下図に示す上腕骨近位端(二の腕の骨の肩関節寄りの端)の各部位(大結節、外科頸など)を骨折することが少なくない。

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 このように、肩関節脱臼に骨折を合併した病態を肩関節脱臼骨折という。
 本稿では、肩関節が脱臼して上腕骨近位端に骨折を合併する状態に対し整復操作をする場合を念頭に、肩関節脱臼骨折にまつわる医学的知見(症状、検査、診断、分類、治療)を紹介したい。

2 症状、検査、診断

 上腕骨近位端に骨折がある場合、局所の自発痛、運動痛が強く、上肢の挙上ができない(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)729頁)
 診断にあたっては、X線撮影を行い、脱臼した上腕骨頭の位置と骨折の合併を調べる(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)725頁)
 X線撮影は、肩関節前後方向・肩甲Y・Velpeau(ヴェルポー)腋窩撮影の3方向が必要である(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)729頁)

3 上腕骨近位端骨折の分類

(1)骨折した上腕骨近位端は、骨頭、大結節、小結節、骨幹部の4つのセグメント(部分)に分かれる傾向が強い。このことを利用して骨折型を分類するNeer(ニアー)分類が普及している(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)728頁)。 
 Neer分類は、セグメント相互の間に1cm以上の転位、あるいは45°以上の角状変形がある場合だけを「転位したセグメント(パート)」とみなし、いくつのパートに分かれたかによって2‐part、3‐part、4‐partと分類する方法である。これに対し、1cm未満又は45°未満の転位は、骨片間の軟部組織が健在であると考え、実質的な転位とみなさない(1‐part)(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)728、729頁)

(2)上腕骨近位端の骨折のなかでは、外科頸の骨折の頻度が最も高く、転位を認めないタイプが殆どである(「STEP整形外科第3版」(海馬書房、2009)75頁)。他方、解剖頸の骨折は頻度が低い(「STEP整形外科第3版」(海馬書房、2009)78頁)。

4 治療

(1)総論

 脱臼し骨折している場合には、まずは、ずれ(転位)を本来の正常な位置に戻す必要がある。転位を正常な位置に戻すことを整復というが、整復には、非観血的整復(徒手整復)と観血的整復がある。
 そして、非観血的整復(徒手整復)には、大きく分けて無麻酔での徒手整復と麻酔下での徒手整復とがある。

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 整復には2つの原則がある。
 第1の原則は、第一選択として非観血的整復(徒手整復)を行うことである。
 第2の原則は、解剖学的に正常な位置へ整復することである。そのために、X線透視下で整復操作を行うと、整復状態が確認しやすくなる。無麻酔では、患者が痛みのあまり筋肉に力を入れてしまうことで牽引力が働いてしまい、整復が非常に困難となるため、通常は麻酔下で行う。正確な位置の意味は骨折の状況により異なる。管状骨の骨幹部の骨折では、自然矯正能が働くため、成人では横径で3分の2の整復ができれば十分であるのに対し、関節近傍の骨折では、自然矯正能が働かないため、可能な限り正確に整復することが要求される(「STEP整形外科第3版」(海馬書房、2009)45、46頁)

(2)各論:文献

ア 文献によれば、治療法は次のとおり行う。

イ 単なる脱臼に対する治療
 脱臼に対する治療としては、非観血的整復(徒手整復)を行う。
 無麻酔でも可能な場合があるが、疼痛をなくすことによって筋肉の弛緩を得るため、全身麻酔(静脈麻酔)を施すほうがよい。
 整復後は、整復位をX線像で確認し、麻酔覚醒後、上肢を体幹に着けて固定する(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)725頁)

ウ 上腕骨近位端に骨折を合併している場合の治療
(ア)上記のNeer分類に応じて治療法を決する。

(イ)外科頸の2‐part骨折のうち骨性接触が保持できるものに対しては、三角巾のみによる固定とし、早期運動療法を行う。これは、なるべく関節拘縮を残さず、実用的な肩関節機能の回復を目指すものである。最初は振り子運動とし、疼痛が軽減するに従い他動運動、次いで自動運動を行わせる(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)729頁)。

(ウ)外科頸の2‐part骨折のうち整復位が保持できないもの対しては、牽引療法がおこなわれることもあるが、臥床を強いるので、最近では内固定が好まれる(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)729頁)。完全な外科頸骨折を伴う場合には、整復操作を行っても脱臼した骨頭に力が及ばないため、徒手整復ではなく、観血的整復を行い、骨折を内固定 する(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)725頁)

(エ)大結節の2‐part骨折に対しては、引き寄せ鋼線締結法で内固定する(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)729頁)。大結節骨折を合併している場合は、肩関節脱臼を整復すると骨折も整復されることが多い。しかし、転位が残った場合には、観血的整復固定を行う(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)725頁)大結節骨折を合併しているときには新たな骨折を生じやすいので、無麻酔で整復を試みてはならない(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)725頁)

(オ)4‐part骨折に対しては、種々の固定法を組み合わせた手術が必要となる(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)729頁)。通常、人工骨頭置換術が行われる(「STEP整形外科第3版」(海馬書房、2009)77頁)

(3)各論:実臨床

 上記のとおり、文献によれば、完全な外科頸部骨折を合併する場合には麻酔の有無に関わらず非観血的整復自体が禁忌であり、また、大結節骨折を合併する場合には無麻酔での非観血的整復が禁忌である。
 ところが、臨床の現場においては、大結節骨折及び頸部骨折を伴う場合であっても、患者の脱力が十分に得られて整復操作に抵抗がないときには、そのまま整復されることもあるため、無麻酔で非観血的整復を試みることがあるという。
 ある肩関節治療の専門医から聴取したところをまとめると、その手順は次のようになる。

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1 内固定と外固定
内固定とは、手術で固定材を入れて骨折部を連結固定する方法である(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)695頁)

外固定とは、ギプス固定など、体外から骨折部位を固定する方法である(「標準整形外科学第11版」(医学書院、2009)695頁)