1 肺がん見落としと注意義務

 筆者が受ける相談の中で肺がんに関する相談では、健康診断における肺がんの見落とし事案の相談が多い印象を受けます。

 肺がんの見落としが起きた場合には患者は精密検査を受ける機会を失い、適切な治療を受けられない結果として病期(ステージ)が悪化し、肺がんが発見されたときには既に多臓器転移(多臓器転移すれば病期は最重症のステージⅣと判定されます)が生じるなど重症化していることがほとんどです。

 健康診断における肺がんの見落としの事案では、一般論として肺がんの見落としが起きた健康診断が集団検診であるか個別診断であるかによって胸部レントゲンの読影を行う医師に求められる注意義務の重さが変わると考えられるようです。

 集団検診による読影では大量の受診者の胸部レントゲン写真を迅速に読影しなければならない、過去に撮影されたレントゲン写真との比較を行うにも限界があり、集団検診における読影の注意義務は個別診断における注意義務と比較すると軽減されると考えられます。

2 集団検診における肺がんの見落としに関する裁判例(過失を否定した例)

 読影医による肺がんの見落としの過失を否定した裁判例として仙台地判平成8年12月16日判タ950号212頁があります。

 この裁判例では、集団検診において撮影された胸部レントゲンフィルムの読影を担当する医師が陰影を異常と判断しなかった場合における医師の過失の判断につき①当該陰影を異常と認めないことに医学的な根拠がなく、②これを異常と認めるべきことにつき、読影する医師によって判断に差異が生ずる余地のないものについては、異常陰影として比較読影に回し、再検査するか否かを検討する注意義務があるとの基準を定立したうえで、これに該当しないものを異常陰影として比較読影に回すかどうかは、読影を担当した医師の判断に委ねられており、それをしなかったからといって直ちに読影判断につき過失があったとはいえないものと解するのが相当であるとしました。

 そして、当該陰影の位置と人体の構造を考慮すれば、同フィルム上の陰影を異常と認めないことに医学的な根拠がないとはいえず、かつ、読影する医師によって判断に差異が出る余地がないとはいえないとして読影担当医師の過失を否定しました。

 この判決も、前述したとおり、多数者を対象にして短時間のうちに大量の読影等を行う必要があるという集団検診の性質に注目し読影医の注意義務の限界を設定したものと考えられます。

 ただし、健康診断における検査も医療行為であるため検査結果から異常が読み取れる場合に何らの追加検査や処置がされない場合にまで医師の過失が否定されるわけではありません。

 次回は、医師の過失が肯定された裁判例を紹介したいと思います。

弁護士 藤田 大輔