1.肺がんの見落とし

 最近、医療事件の相談の中に肺がんの見落としについての相談が増えている印象を受けます。
 特に、健康診断で胸部レントゲン撮影がされた際に肺に陰影が観察されたものの精密検査を受けるよう指示されずに放置された結果、翌年の健康診断の際に病期が進行した状態で発見される例が目立つように思われます。

 肺がんの見落としと聞くと完全な医療過誤であり医療機関に対する損害賠償も容易であるようなイメージを持たれる方も多いですが、撮影された胸部レントゲン画像等を精査する際に医師はどの程度の注意義務を負うのかという問題や、仮に見落とし時点で肺がんが発見されて治療が行われていれば病期(ステージ)の進行を止めることが可能であったのかという複雑な因果関係の問題も存在するため医療機関に対する責任追及に困難を極めることがあります。

2.筆者が経験した裁判(概略、結果、印象)

 筆者は、肺がんの見落としにより肺がんの発見が約1年半も遅れ治療も遅れたため患者の病期(ステージ)がⅣ期まで悪化した事案において、患者側代理人として民事裁判を提起して医療機関の責任を追及したことがあります。
 この事案では、医師の肺がん見落としの過失については医療機関側も争いませんでしたが、医師が肺がんを見落とした時点における患者の肺がんの病期(ステージ)に関連して損害との間の因果関係の範囲が争われました。

 筆者は、肺がんの見落とし時点における原発巣の大きさがそれほど大きなものではなかった点やリンパ節転移が存在した証拠が存在しない点などを指摘し、肺がん見落とし時点での病期(ステージ)をⅠB程度と考えるのが相当であるが、医師の見落としにより病期(ステージ)がⅣ期まで悪化し患者の5年生存率が大幅に低下したため患者に生じた損害は重大な損害として評価されるべきと主張しました。
 しかし、医療機関側は見落とし時点における原発巣の大きさからリンパ節転移が存在した可能性が高い点などを指摘し肺がんの見落とし時点での病期(ステージ)はⅢB程度であると考えられ患者の5年生存率の低下は大幅なものではなく重大な損害と評価されるべきではないと反論しました。

 最終的に、裁判所が医療機関に解決金として2000万円の支払い義務を認める旨の和解案を示し、医療機関がこれに応じたため医療機関が患者に2000万円の解決金を支払う条件で和解が成立しました。
 筆者は、裁判所が患者に配慮した合理的な内容の和解案を示してくれたことにより適切な解決がされたと思います。

 しかし、医師の見落としの程度が大きければ大きいほど見落とし当時の資料が残らないため結果的に患者側の立証責任が重くなるという矛盾も同時に感じました。
 患者側に立つ弁護士としては、医療行為に大きな過誤(過失)がある場合には医療機関側に因果関係の立証責任が転換されることが公平でないかと思いますが、残念ながら現在の裁判実務においてこのような考え方は採用されていません(事実上ある程度の配慮はあると思われますが・・・)。
 おそらく、多くの患者側弁護士が抱える悩ましい問題といえるでしょう。

弁護士 藤田 大輔