弁護士 井内健雄

東京地裁H
16.12.6

    胸部レントゲン検査懈怠×

 

 (1)喘息と胸部レントゲン検査

喘息の増悪(喘息発作)とは,息切れ,咳,喘鳴,胸部圧迫感(胸苦しさ)あるいはこれらの症状が急速進行性に悪化することをいうこと,軽度の呼吸困難で横になることができる場合や,安静時にも呼吸困難で横になれない場合には,通常,吸入療法を実施して治療効果の有無を確認することとされており,概ね1時間程度で吸入療法による治療効果が認められる場合には患者を帰宅させてよいとされていること,呼吸困難という喘息様症状があるとき,胸部レントゲン検査や心電図等の諸検査は,喘息以外の理由で呼吸困難を起こした疑いがある場合又は他の合併症の存在が疑われる場合に実施することとされていることが認められる。

 (2)Aに対する胸部レントゲン検査の必要性について

Aは,8月17日の救急外来受診時,呼吸困難を訴えており,4月及び5月にも同様の症状で医師の診察を受けて投薬により症状が軽快した旨を述べて いた。そして,8月17日の吸入療法後には,呼吸困難が消失し,喘鳴が軽度となり,SPO2も96%まで上昇した。また,同月18日の救急外来受診時にも,呼吸困難を訴えており,吸入療法後には喘鳴があるかないか分からない程度まで軽快した。さらに,同日の一般外来受診時には,喘鳴が少し認められたものの,その範囲は著しく狭まっていた。
 したがって,8月18日ころの時点におけるAの状態は,喘息以外の理由で呼吸困難を起こしたこと又は他の合併症の存在を疑うべき事情がない限り,胸部レントゲン検査を実施することなく喘息と診断することができる状態であったといえる。
 この点について,原告らは,8月18日ころAが平成11年春ころからの咳及び痰を訴えていた旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
 また,原告らは,Aの喫煙習慣及び年齢を指摘するが,これらの事情をもって直ちに8月18日ころ当時Aに肺がんが発生していたことを疑うべき事情とはいえない。

 他に,Aが喘息以外の理由で呼吸困難を起こしたことや他の合併症の存在を疑うべき事情は認められない。
 なお,原告らは,Aが3月ころ以降胸部レントゲン検査を受診していなかったことを指摘しているが,約5か月間胸部レントゲン検査を受診していなかったことをもって,直ちに8月18日ころの時点で胸部レントゲン検査を実施すべきであったとはいえない。
 以上より,被告Y2が,8月18日ころ,Aに対し,胸部レントゲン検査を実施すべきであったとはいえない。



【考察】
①喘息患者に対して、胸部レントゲン検査をする必要は原則ない
②咳、血痰等の喘息の症状以外の症状が現れた場合に、検査が必要となる。