1 どんな病気か

 神経性食思(食欲)不振症とは、皆さんに馴染みのある言葉で言えば、いわゆる「拒食症」のことですが、この病気、けっこう恐いんです。

 というのは、この病気は一応”精神疾患”に入るのですが、病気の性質上、ほぼ間違いなくカラダの異常を来すからです。つまり、長引く拒食のため低栄養状態になり、内科的治療を必要とする場合が多いにもかかわらず、患者さん自身は、カロリー摂取に対する恐怖心から治療に抵抗することが多いんです。それに加えて、これは医学の専門分化のある種の弊害かもしれませんが、精神疾患であるが内科的治療も必要ということで、内科と精神科の連携が重要となるのですが、多くの病院ではそのような体制にはなっていません。

 例えば、この病気で入院加療が必要な場合を想像してみてください。栄養療法などの内科的治療を行うのであれば、内科の一般病棟に入院させるべきですが、この病気の患者さんは、後述するように精神疾患に罹患しているため、治療への抵抗も強く、また一般病棟に入院している他の患者さんとトラブルを起こすことも珍しくないと言われています。この点に配慮するならば、精神科の病棟に入院させたほうがよいのですが、今度はそうなると内科的治療の対応力に問題が生じます。

 生命への危険が迫っているような重症症例では、精神科で治療をするのはナンセンスで、その場合は内科でしっかり見てあげるべきだと思いますが、その場合、内科医にもこの病気に対する理解とカウンセリング能力が必要となります。また、他の入院患者とのトラブル回避の院内体制の構築も必要でしょう。いずれにしても、医療機関にとっては、大変扱いにくい病気です。

 ちなみに、この患者の実に70%が一般内科を受診しているそうです。ここまで来ると、もはや”精神疾患”とは言えず、内科の領域とも言えそうです。

2 発症と身体所見

 この病気は、一般的に誤解されているような、”度が過ぎたダイエット”ではありません。単にダイエットが過剰だっただけなら、精神疾患とまではいえないでしょう。

 この病気がいわゆる思春期に発症しやすいこととも関連しますが、両親など家族との不和、いじめ、転校、就職からくる過度のストレス、人間関係の悩みなどが背景になることが多いと言われています。

 また、一般的にこの病気にかかりやすい性格傾向も指摘されております。完璧主義で学校の成績も良好、親から見て「手がかからないよい子」が発症しやすいと言われているようです。

 一般的に言われているこの病気の身体所見を簡単にまとめてみました。

  • 標準体重に対する20%以上の体重減少
  • 幼児体型
  • 無月経
  • 乾燥した皮膚
  • 背部などのうぶ毛の密生
  • 低体温、低血圧、低血糖
  • 徐脈、不整脈
  • 嘔吐
  • 浮腫

 発症年齢は、ほとんどが25歳以下ですが、まれに30歳になってから発症するケースもあるようです。
 また、男性が罹患するケースもあるそうですが、ほとんどは女性です。女性がこの病気にかかると、割と早い時期に無月経になります。

 また、この病気の患者さんの約50%に一過性の”過食症”が出現するとも言われています。どうしてかというと、十分な栄養をとらなくなると、当然に低栄養状態になり、やがてカラダは”饑餓状態”に陥ります。こうなると、患者本人の意思はともかく、カラダは栄養を求めます。その結果、脳の食欲中枢が刺激され一過性の過食症が出現するわけです。

 その後、十分な栄養をとるようになれば、めでたし、めでたしなんですが、あいにくそうはなりません。カラダは栄養を求めていても、本人の意思は栄養摂取を強く拒絶しています。結果、どうなるかというと、下剤などを乱用するようになり、嘔吐も繰り返すようになります。

 嘔吐を繰り返せば、当然、食べ物だけではなく胃酸なども排出されますから、低カリウム血症などの電解質異常も出現します。こうして、段々とカラダに異変が起こり、カラダの抵抗力・免疫力も低下し、感染症にもなりやすい体質になっていきます。

 本当に恐いですね。これから何回かに分けて、この病気をブログで取り上げたいと思います。

参考文献
・「内科医にできる摂食障害の診断と治療」堀田眞理著(三輪書店)