弁護士 池田実佐子

子宮頸癌

 


*参考文献

医療情報科学研究所『病気がみえるVol.9 婦人科・乳腺外科 第2版』メディックメディア、2009

倉智博久ほか『産婦人科学テキスト』中外医学社、2008

 


「子宮頸癌」

=子宮頸部に発生した悪性腫瘍

女性生殖器癌の中で最多

 扁平上皮癌(85%)、腺癌(15%)

 多産婦、若年者に多い

 好発は30~40歳代、進行癌は60歳代以降に多い

 


●症状

・性器出血

 性交後出血も。進行癌では出血量多く、貧血伴う

・帯下(女性性器からの分泌物のこと。おりもの)

・腰痛、下肢の疼痛

 腫瘍がかなり大きいと骨盤内神経刺激するから

 進行癌では腰背部痛の原因に

 


●診断

①30~60歳代

②性交後出血などの不正性器出血

③頸部細胞診でクラスⅢa以上

④コルポスコピーで異常な移行帯所見(赤点斑、モザイクなど)、浸潤癌所見

⑤狙い組織診で扁平上皮癌、腺癌など

⇒子宮頸癌の診断

 


●治療

① 手術

・円錐切除術

0期、胎児希望有のⅠa1期(=間質浸潤の深さ3㎜以内で広がり7㎜超えない)

・単純子宮全摘出

 0期、胎児希望無のⅠa1期

・広汎子宮全摘出

 Ⅰa2(=間質浸潤の深さ3㎜超え5㎜以内で広がり7㎜超えない)

~Ⅱb期(子宮傍組織浸潤有)

② 放射線

 Ⅲ、Ⅳ期(場合によりⅡb期)

③ 化学療法

 Ⅲ、Ⅳ期

●子宮頸癌の診断の遅れに関する裁判例:大阪地判昭和62年9月28日

 


①診断の遅れに関する過失

更年期の婦人が不正性器出血を訴えて診察を求めた場合、医師はまず子宮の悪性腫瘍、特に癌の可能性を考えて細胞診や子宮内膜の組織検査を実施し、悪性腫瘍の存在を否定できた段階で、次の子宮筋腫の可能性を、第三に内分泌異常に由来するいわゆる更年期出血の可能性を考えて検査を進めていくべき

↓本件

廣瀬医師は月子から通常月経とは異なる性器出血、特に二か月以上にわたる継続的な出血があるとの報告を受けたのであるから、まず最悪の場合である子宮癌等悪性腫瘍罹患の可能性から検討し、たとえ当日月子に月経が始まつて細胞診ができない状態であつたとしても組織診を実施すべきであつたのではないか

↓それなのに

廣瀬医師は当日の診察で子宮体の大きさや子宮膣部の状態等に癌を疑うべき特段の事情なしと考え、とりあえず経過観察を行うことが適当と判断して組織診を実施しなかつた

↓BUT

・月子が右診察当日訴えた性器出血がその期間及び態様からみて異常なものであることは廣瀬医師自身認めている

・更年期の婦人の不正性器出血は子宮癌初期の第一の主要徴候であり、その訴えのみで子宮癌罹患を疑うに十分な理由があるといえる

 ↓よって

当日の診察において出血以外の癌の徴候が確認できなかつたという理由で当日即座に組織診を実施しなかつた点において、廣瀬医師の診療に非難されるべき落ち度があつたのではないか

 ↓昭和56年6月11日の廣瀬医師について検討

・月子の被告病院医師に対する報告では右廣瀬医師の診察時までに既に3か月以上にわたつて通常の月経と異なる性器出血がみられたこと

・右診察後わずか14日後の同月月二五日に大本医師が診察した時には子宮体が超鵝卵大に肥大して硬化しており、かつ子宮内膜組織も組織診で癌であることが明白に認められる状態になつていたこと等

同月11日の廣瀬医師の診察の時点で既に月子は子宮癌に罹患しており、かなりな程度まで進行していたと推認することができる

↓したがつて

廣瀬医師が当日子宮癌等の悪性腫瘍の可能性をまず想定し、月経等で出血が生じている場合でも可能な組織診を実施していれば月子の子宮癌を発見し得た

↓そうすると

廣瀬医師は、組織診を実施することなく月子の出血を更年期出血と診断して経過観察に付したことにより、月子の子宮癌の発見を大本医師の診察までの14日間遅延させたということができる。

 


②死亡との因果関係

・子宮摘出手術は成功し右子宮癌は一応除去できたといえるにもかかわらず癌の再発を阻止し得なかつたこと

・廣瀬医師の診察と大本医師の診察との間の期間がわずか14日間にすぎないことなど

仮に14日早く廣瀬医師によつて子宮癌が発見されていたとしてもそれによつて癌の転移を阻止し月子の死亡を回避し得たかは極めて疑問。

事実的因果関係自体を認めることが困難。


以上