1 はじめに

 敗血症(sepsis)とは、感染巣から病原菌・毒素が血液中に侵入して全身性の過度の炎症反応を引き起こす重篤な臨床症状を指します。

 全身性の炎症反応症候群をSIRS(systemic inflammatory response sundrome)と言いますが、このSIRSのうち、感染を背景としたものが敗血症です。
 起炎菌の多くは、グラム陰性桿菌又はグラム陽性球菌であると言われています。

 敗血症は、特に外科の分野で問題になります。というのは、大きな手術は、周術期管理がしっかりしていても、感染のリスクが常にあるからです。また、敗血症の大部分が院内感染だと言われており、患者さんが亡くなられると医療紛争に発展しやすいと思われます。その意味でも、医療事件を扱う弁護士としては、敗血症に関する知識と理解が求められます。

 敗血症は、それ自体重篤な病態なのですが、病態が進行すると重症敗血症(severe sepsis)に至り、さらに悪化すると敗血症性ショック(septic shock)に発展し、最終的には多臓器不全(multiple organ failure, MOF)を引き起こし致死的な状態に陥ります。特に、重度の乳酸アシドーシスに陥り多臓器不全を呈してくると致命的とされます。

 したがって、手術の際には、敗血症にならないような予防対策が重要となり、仮に敗血症を発症してしまったとしても、それを早期に発見し適切な治療を行うことが重要となってきます。敗血症の早期診断ができないと、敗血症性ショックからMOFへの進展は避けられないとさえ言われています。

2 敗血症の症状と診断

 敗血症によくみられる症状は、①38℃以上の発熱又は36℃以下の体温低下、②心拍数90/分以上の頻脈、③20回/分以上の頻呼吸、④32㎜Hg以下の二酸化酸素分圧、⑤12000以上又は4000以下の白血球数などです。  もっとも、これらの基準は、現在では診断に役立つほど正確な指標ではないとされており、限界があるそうです。

 そして、敗血症患者の約40%が敗血症性ショックに合併するそうです。

 もっとも、敗血症性ショックには、ショックの初期症状であるhyperdynamic stateと、ショックが重篤化したhypodynamic stateの2段階があります。

 まず、hyperdynamic stateでは、動脈が拡張して末梢動脈の血管抵抗が下がります。動脈の拡張と末梢の血管抵抗の減少は血圧を低下させる要因ですから、生体は、これに対する防衛策として心拍出量を増加させることで対応します。正常な血圧を維持しようとカラダが頑張るからです。
 このように初期段階で来る敗血症性ショックをwarm shockと言い、この段階で敗血症の診断を下し遅滞なく適切な治療をほどこせば、奏功する可能性も十分あると言われています。

 しかし、その後、心拍出量が下がり、cold shockの段階に入ると、症状は重篤化していきます。この段階になると、治療抵抗性が上がり、治療が奏功しない可能性が高くなるそうです。
 したがって、なるべく早期に敗血症の診断をつけて治療を開始することが救命の鍵を握ると思われます。

 診断のための検査項目は多岐にわたるようで、病歴、身体診察のほか、尿検査・培養、血液検査・培養、心電図、心エコー、胸部X線、血清電解質、肝機能検査などが実施されるそうです。

3 主な治療

 敗血症に対する治療の中心は輸液です。

 前述したように動脈・細動脈が拡張し(血圧低下要因)、また血管透過性の亢進により循環血液量も減少しているため(これも血圧低下要因)、大量輸液による蘇生がなされるようです。
 0.9%生理食塩液は、CVP(中心静脈圧)8㎜Hg、PAOP12~15㎜Hgを目標に投与され、低血圧を伴う乏尿の患者に対してでも禁忌にならないそうです。

 輸液によりこれらの目標値に達しても血圧の回復が見られなければ、ドーパミンなどの昇圧剤も投与されます。

 また、起炎菌に対する治療も同時に必要となりますので、抗菌薬である抗生物質も投与されます。

 なお予後について、これはアメリカの資料ですが。敗血症患者全体に対する死亡率は約15%、重症敗血症患者の死亡率は約20%、敗血症性ショックに発展した患者の死亡率は45%に及んだとされる報告もあります。

 敗血症について、さらに詳しく知りたい人は、以下の参考文献を参照してください。

参考文献
・「メルクマニュアル・第18版」(日経BP)594頁以下。
・斉藤厚・那須勝・江崎孝行編集「標準感染症学・第2版」(医学書院)211頁以下。
・品川長夫著「外科医のための抗菌薬療法」(医薬ジャーナル社)290頁以下。