新生児の管理

東京高等裁判所平成10年(ネ)第1929号損害賠償請求控訴平成13年10月17日

 前記のとおり、本件事故当時、新生児をうつ伏せ寝にする場合には、アイロン台ぐらいの固さを目安とした固くて薄い敷布団を使い、枕や枕代わりのタオル等を使わず、細やかな気配りと十分な注意を忘れず、特に最初のうちは目を離さないなどの注意事項を必ず守るべきことが提唱されており、控訴人病院自身も同様な趣旨を記載した小冊子(甲第11)を産婦に配っていたのであるから、総合病院である控訴人病院の産婦人科病棟及び産婦人科看護婦を管理、監督する管理・監督者(本訴において氏名を特定することはできないが、存在することは明らかであり、以下「本件管理・監督者」という。)並びに同科新生児室担当の看護婦であるE助産婦は、少なくとも生後間もない新生児をうつ伏せ寝にする場合には、上記のような注意をすべきであることを知っていたか、又は容易に知り得たものと認められる。

 したがって、総合病院にあって産婦人科の専門的医療を提供すべき本件管理・監督者は、少なくとも生後間もない新生児をうつ伏せ寝にする場合には、それに適した寝具、すなわち当該新生児が低酸素状態となったり、それにより嘔吐し、吐乳を吸引したりすることのないように、薄く、材質の硬い敷布団を使用し、軽い上掛け、タオルケット等の掛け布団を準備して、これを浅く掛けるか、又は何も掛けず、枕や枕代わりのタオルを使用しないこととした上、新生児室担当の看護婦に対し、生後間もない新生児をうつ伏せ寝にする場合にはそのような寝具を用い、これがなければ、うつ伏せ寝にしてはならないことを徹底させると同時に、寝かせた後も、当該新生児に異常が生じていないかどうかという点(すなわち、鼻口が圧迫、閉塞された状態となっていないか、吐物による気道閉塞が生じていないか、あるいは呼吸及び心拍の異常がないかなどという点)を肉眼又は機器を使用して継続的に観察又は監視するように指導する注意義務があるものというべきである。

 また、同じく、総合病院である本件病院の産婦人科新生児室の担当看護婦も、生後間もない新生児をうつ伏せ寝にする場合には、前記のようなうつ伏せ寝に適した寝具を使用し、寝かせた後も肉眼又は機器により継続的に観察又は監視すべき注意義務があるということができる。特に本件では、Cは生後3日であって、うつ伏せ寝に慣れておらず、E助産婦は、前記認定のとおり、Cに対し、1月8日午前2時30分以降、これまでで最も量の多いミルクを与え、午前5時40分ころにもミルクを与えたが、ミルクを吐き、腹満もあったことから、再度吐く可能性があることを認識していたというのであるから、新生児の看護の専門家としては、このように嘔吐する可能性が高く、かつ、うつ伏せ寝に慣れていない新生児をうつ伏せ寝で寝かせる場合には、寝具に十分な注意を払うとともに、寝かせた後、当該新生児に異常が生じていないかどうかという点を肉眼又は機器を使用して慎重に継続的に観察又は監視すべき注意義務があるものというべきである。

 しかし、本件管理・監督者は、新生児室担当の看護婦に対し、生後間もない新生児をうつ伏せ寝にする場合に前記のような寝具を使用することを徹底させることを怠っていたのみならず、当該新生児に異常が生じていないかどうかという点を肉眼又は機器を使用して継続的に観察又は監視するように指導することを怠っていたものというべきであり、民事上の不法行為の原因となる注意義務違反と過失が認められる。

静岡地方裁判所沼津支部平成4年(ワ)第13号損害賠償請求事件平成8年7月31日

 被告は、新生児をうつぶせの状態で寝かす方針を採っていたものであるところ、新生児が鼻口部を寝具などに顔を押し付けるようにして閉塞することがないようにするためには、ベットの上に柔らかい可動性のある物を敷かないようにするとともに、春子のような出生直後の新生児の場合には、看護婦に新生児を綿密に観察させ異常の有無を早期に確切させるべき注意義務がある。

 ところが、前記認定のとおり、被告は、春子をうつぶせ状態で寝かすに当たり、新生児室のベッドの上に柔らかいタオルを敷き、これをベッドに折り込む程度にしていたものである。また、被告は、看護婦に対し授乳時などに新生児を観察するよう指示していたことが窺われるが、春子が時折顔を下向きにして寝ていたことは前記認定のとおりであるところ、このことを知らされた看護婦がそれ以降春子の様子に注意を向けた形跡を窺うことはできないのみか、夜間の授乳は四時間ごとであり、当直看護婦がそれ以外にも新生児室に出入りした機会に観察をしでいたとしても、この程度の観察では、新生児の異常を早期に発見することは困難な状況にあり、現に、佐藤看護婦は、授乳時などに春子を観察していたものの、後記のとおり、春子の異常に気付くまでの数時間の間放置し、その異常を発見しなかったものであるから、十分な観察体制を指示していたとはいえない。

 したがって、被告についは、右のような義務違反を免れることはできない。

 さらに、当直看護婦は、春子のような出生直後の新生児については、その変化を観察して異常の有無を早期に確認すべき注意義務がある。

 ところが、当直勤務をしていた佐藤看護婦は、春子に最後の授乳をした平成三年四月九日午後一一時を過ぎてから異常を発見した翌一〇日午前二時四五分までの間、何らの異常を気付いていないのであるから、この間においては春子を観察して異常の有「早期に確認すべき注意義務を尽くしたとはいい難い。

 そして、被告及び佐藤看護婦が以上に述べた注意義務を尽くせば春子の窒息死を防ぎ得た蓋然性があったというべきであるから、被告及び佐藤看護婦の右のような過失と春子の死亡との間には、相当因果関係があるものと認められる。

 したがって、被告は、民法七〇九条あるいは佐藤看護婦の使用者として民法七一五条により、損害賠償責を負うのが相当である。

東京地方裁判所平成13年(ワ)第21750号損害賠償請求事件平成15年1月27日

病院の医療従事者には、新生児を入院させてその看護をする場合、新生児が退院するまでの間、新生児に骨折のような不測の事態が発生しないように十分な監視をする義務がある。ただし、新生児が個室の病室内で母親の監視下にある場合には、病院の医療従事者が新生児に対し十分な監視をすることは不可能であるから、このような監視義務を負うことはない。

 したがって、本件において、被告病院の医療従事者は、原告X1が骨折事故の発生時に原告X2の監視下にあったとすれば、監視義務違反に問われることはないが、そうでない場合には、事故の原因が不明であっても、原告X1が骨折したことについて監視義務違反の責任を負う。

・・・

 原告X1が骨折事故の発生時に原告X2の監視下にあったと認めることはできない。
 したがって、被告病院の医療従事者が原告X1に対する監視義務を免れることはなく、原告X1が骨折したことについて監視義務違反の不法行為が成立し、これにより,被告は使用者責任を負う。

以上

弁護士  池田実佐子