証拠収集

 医療過誤事件を病院側と戦っていくためには、その戦いが示談であれ、訴訟であれ、まず重要なのが証拠集めです。そして、証拠の多くは医療機関が保有しているため、患者サイドとしては、その医療機関側にある証拠を吐き出させる必要があります。この方法には、情報開示請求制度と証拠保全制度があります。

 前者は、個人情報の保護に関する法律(略称:個人情報保護法)等を根拠とするものであり、後者は民事訴訟法234条以下に定められています。

 これらのうち、今回は、前者の情報開示請求制度による証拠収集方法について、少し述べてみたいと思います。

 以前は、診療記録の開示をする医療機関が殆ど存在しないといった時代もありましたが、現在では、逆に、開示に応じない医療機関は少なくなっています。個人情報保護法等が定められたことの影響が大きいのです。
 ただ、誤解している人も結構いるのですが、この法律があるから、患者が請求すれば医療機関が保有する個人情報を常に全部入手できるというわけではありません。個人情報保護法は、診療記録の開示を直接規定したものではないので、同法の規定の適用対象となる範囲内でしか開示されません。

 すなわち、個人情報保護法は、高度情報通信社会の進展に伴い、個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報取扱業者に一定の遵守すべき義務を課すことで、個人の権利利益を保護するという目的があります(個人情報保護法1条)。

 そのため、個人情報の量、利用方法からみて個人の権利利益を害する恐れのない業者は、対象とされていません(同法2条3項5号)。したがって、5000人以上のカルテ(診療録)を保有する医療機関のみが対象となり、それ以下の小規模病院、医院、診療所には、個人情報保護法がそもそも適用されないのです。ただ、厚生労働省が平成20年12月、医療機関向けに作成した個人情報取扱指針には、小規模施設であっても開示請求に応ずべきことが求められてはいます。しかし、上記小規模医療機関に対しては、カルテの開示を要求する何らの法的根拠がない以上、頑なに拒絶されればそれまでで、必ず開示されるという保証はありません。

 また、個人情報保護法には、個人情報取扱業者にあたる場合でも、例外的に不開示とできる事由が定められています。つまり、開示すると「本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合」(同法25条1項1号)、「個人情報取扱業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」(同2号)には、開示を拒めることになります。したがって、患者と医療機関との間で既に紛争が生じているような場合に、個人情報保護法を理由に開示請求をしても、上記不開示事由にあたるなどとして、拒絶される事態も想定されるわけです。

 そして、個人情報とは、「生存する」個人に関する情報と定義されており(同法2条1項)、死者の情報は対象とならないため、患者が死亡してしまった場合、遺族が同法を根拠に開示請求をすることができません。もっとも、厚労省の取扱指針には、死亡した患者の配偶者、子、父母、これらに準ずる者(代理人を含む)に対する開示が求められています。

 さらには、個人情報保護法で開示請求できるのが、その「個人に関する情報」であるので(同法2条1項)、必ずしもこれにあたらない医師・看護師当番票や病棟日誌などは、入手できない可能性があります。これらをも含めて、その患者に関し、医療機関側が持っている全情報、全資料を確実に入手したければ、次にお話しする証拠保全制度を利用していくことになります。