1 医師資格と弁護士資格

 日本には、数は多くはありませんが、医師資格と弁護士資格の両方を持っている人がおります。
 医者と弁護士の2つの資格を持っている人は、普段、医者の仕事をしているのでしょうか、それとも弁護士の仕事をしているのでしょうか。

 私自身ちゃんと調べたわけではありませんが、この2つの資格を有する人は弁護士の仕事を選ぶことが多いようです。それには十分な合理的理由があります。

 仮に弁護士資格を有する人が医者になっても、その人の医者としての腕が上がるわけではありません。手術が上手になるわけではありません。したがって、弁護士資格を有していても、宝の持ち腐れになってしまいます。つまり、医療の世界で弁護士資格を持っていることは売りにならない。

 他方で、医師免許を有している人が弁護士になると、医療事件専門の弁護士に簡単になれちゃいます。なぜならば、医療専門の弁護士にとって、勉強しなければならない法律分野は、不法行為、債務不履行、説明義務違反など、民法の基本的な知識です。医学の基礎的な勉強をしてきた弁護士にとっては、専門家になるのに大変早道ですよね。そうすると、弁護士の世界では、医師免許を有していることは大変強みになるわけです(もちろん、医療問題以外を専門にする場合は別です)。

 せっかく難しい資格を2つも取ったのですから、両方活かしたいというのが人情ですよね。なので、最終的には弁護士を選ぶんだと思います。

2 患者側?それとも医療機関側?

 では、医師免許を有する弁護士さんが最終的に弁護士の仕事を選ぶとして、患者側、医療機関側のどちらの仕事を選ぶのでしょうか?
 私の知る限りでは、基本的に医療機関側に立つようです。

 これも考えてみれば合理的です。昔は弁護士の広告は禁止されていました。したがって、せっかく医師免許を有していても、それを宣伝できないわけですから、患者さんたちからの依頼が来ません(笑)。これに対し、医師免許を有している弁護士さんは、当たり前ですが、医学部を卒業しているわけですから、そもそも医療業界に太いパイプがあります。ですから、医療機関からの仕事はきやすい。しかも、医師免許を有している弁護士が極めて少数ですから、その弁護士に仕事が殺到しそうですよね。なので、伝統的には医療機関の立場に立ってきたわけです。

 もっとも、これは弁護士業界の広告解禁で少々状況が変わってきているようで、少数ながら、医師免許を有する弁護士が患者側の依頼も受けるようになってきました。広告で患者側から仕事が来るようになったからです。

3 医師免許保持者の弁護士は有利か?

 前述したように、医療を専門とする弁護士になる場合、スタート・ラインにおいて、断然有利だと思います。私のように、これまで医学の専門教育を受けてこなかった一般の弁護士は基礎から医学を勉強しなければいけないのに対し、医師免許をもっている人にはその必要がないからです。
 ただ、不思議なことに、裁判の勝訴率という点ではあまり関係がないようです。

 その理由としてよく言われているのは、医師免許を有している弁護士は、なまじ医療の知識があるために、素人である裁判官に説明するのが下手であるという点です。つまり、その弁護士にとって、医学上常識のことが素人である裁判官にとっては少しも常識ではない。だから、素人である裁判官にもわかりやすいように説明しなければならないのに、まるで医者に説明するかのような書面を書いてしまう…。これは昔からよく言われていました。

 次に考えられるのは、これは実際にお医者さんから拝聴したご意見なのですが、医師免許を有している弁護士は、まともな医者とは言えない。資格を取っただけで、臨床経験もほとんどないし、医者としての専門分野ももっていない。ところが、徒に医師免許を有しているために、自分は医学を分かっているつもりになっている。本当の第一線の医師からしたら、その辺の若い研修医のレベル(あるいはそれ以下)なのに、自己の判断を過信してしまうと。つまり、かえって中途半端に知識があることが邪魔になるということのようです。これに対して、一般の弁護士には思いこみがない、先入観がない、だから徹底的に調べて深めることができる、とそのお医者さんはおっしゃってました。

 確かに、医療の世界は奥が深いです。我々一般の弁護士からすれば、医学教育を受けてきたことは大変羨ましいのですが、第一線で医療行為を行っている医師からすると、経験未熟な医者以下のレベルで問題外ということなんでしょうね。

 いずれにしても、医療の専門分化は弁護士業界の比ではありません。医師免許をもっているだけではだめで、協力医(この先生たちは、第一線で活躍している医者です)の協力を仰がなければならない点では、私たちと一緒なのだと思います。

 最後に、医師免許を有する弁護士のほとんどは、かならずしも医療事件をやりたくて弁護士になったわけではない、という事情も背景にあると思います。これは、我々の業界の悪いところなんですが、エリート意識の延長線で弁護士資格も取りたいという発想を持ちがちな業界なんです。つまり、医師と弁護士の資格をダブルで持っているのは格好いいわけですよ。なので、実際に医療事件ばかりやっているわけではない、企業のクライアントとかけっこう持っていたりするんですよ。やっぱり医療事件が好きであることが一番大事ですよね。好きな人が最終的には一生懸命やりますから。これは、どんな仕事でも同じですよね。