治療により事故が発生した場合、医師には患者・家族に対し診療の経過や事故の原因を報告する義務があるのでしょうか。
 治療前の説明は、患者の自己決定権の実現のために医師に義務付けられていることは広く知られています。

 他方治療後の報告義務についても、その根拠や内容について様々な見解があるものの、広島地判平成4・12・21が、遺族に対し患者が死亡するに至った経緯・原因について適切な説明をする義務があることを認めて以降、複数の裁判例で、その存在が認められています。
 そして、報告義務違反が認められる場合は、医療過誤とは別に損害賠償責任を負うこととなります。

 治療後の報告義務の法的根拠としては、「委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」という準委任契約上の義務が多く挙げられているようです(剱持淳子「医師の顛末報告義務」判例タイムズNo.1304(2009.11.1)37頁)。
 そうすると、契約の当事者でない遺族に対して報告義務を負うのかどうか問題となりますが、根拠は様々であるものの、遺族に対する報告義務も裁判例上認められています。

 

 ここでは、医療過誤があった場合に過誤の事実を報告する義務があるか、また報告義務違反の判断基準について判断した近時の判例をご紹介します。

 薬剤の誤注入により患者が死亡した事案(京都地判平成18・11・1)で、裁判所は、

事故後の説明義務の有無について

 医師は、診療契約に基づいて診療当時の臨床医学の実践における医療水準に従った診療を行うべき注意義務を有しているところ、仮にそれに齟齬するような過誤を行った場合、診療契約に基づき、患者にほとんど影響がない場合などの特段の事情でもない限り、過誤の事実を患者、(患者が死亡した場合は)遺族に対して報告すべき義務がある。

報告を誰が何時すべきかについて

 過誤の内容、過誤の解明度、過誤の報告をした際の患者・遺族への影響の有無、程度、担当医と患者・遺族とのそれまでの関係などを総合的に考慮したうえ、時機を失することなく速やかになされるべき。

 と判断しました。そして、

本件で報告義務違反が認められるかどうかについては、

 医師らが事故についてある程度解明されてから遺族に報告しようと思っていたことにも一応の合理性があること、患者が死亡して大きな悲しみに打ちひしがれている遺族らに声をかけづらかったこと、事故が発覚してから報告までの時間が約2日間にとどまっていることなどから、医師らの対応が社会通念上明らかに許されないほどのものとは認められない。

 として、報告義務違反には当たらないとしました。

 この事案では、誤注入が判明してから遺族らへの報告までに約41時間経過していましたが、過誤判明後直ちに報告していないからといって、報告義務違反になるとはされていません。

 もっとも、この点について本件の高裁(大阪高判平成20・1・31)は、

・常に医療過誤の認識後直ちに報告しなければ義務違反に該当するとまではいえないが、医療機関側の恣意が許されるものではないし、事故の隠蔽が許されるものでないことは当然
 したがって、事故隠蔽の意図が認められる場合や、これに準ずるような医療機関側の恣意的な事情により、故意又は過失により報告が遅れた場合には、仮に報告までの時間が比較的短時間であっても、そのこと自体が報告義務違反として、医療事故とは別個の独立した不法行為あるいは債務不履行に該当する。

 と述べています(同上57頁)。

 この裁判例によると、医療過誤があった場合、医師は原則として患者・遺族に対し過誤について報告義務を負います。

 もっとも、その義務違反は単に事故から報告までの時間の長短によって判断されるのではなく、報告までに時間を要した原因や、医師や医療機関の意図などが考慮されることとなります。

弁護士 池田実佐子