証拠収集3

 前回は、なぜに証拠保全制度があるのかという制度の目的、趣旨とその制度目的達成にあたって重要となる事項等を述べました。
 (前回の記事はこちら:証拠保全制度の重要性

 今回は、証拠保全制度全般において注意すべき点などを網羅的に触れていこうと思います。

 まず、証拠保全は、相手方は誰か、証明すべき事実は何か、なぜ保全が必要なのかといった必要事項を記載した書面をもって行わなければなりません(民事訴訟規則153条1項)。

 相手方が私立の医療機関である場合、法人化していてればその医療法人、法人化していなければ医師個人を相手方として表示するのはよいでしょう。これに対し、相手方が公立の医療機関である場合、やや複雑なので注意してください。すなわち、国立病院や国立療養所の場合の相手方は、「独立行政法人国立病院機構」となり、国立大学附属病院の場合の相手方は、「国立大学法人」となり、国立高度専門医療センターの場合の相手方は、「国」となり、公立病院の場合の相手方は、「地方公共団体」となります。病院に国立と名が付けば、相手方が「国」となるわけではないのです。

 そして、証明すべき事実や保全の必要性に関しては、比較的緩やかに判断される運用がなされています。まだ、証拠も入手していない段階で余りに具体的事実を厳格に要求すると、裁判を受ける権利(憲法32条)を侵しかねない反面、証拠をそのままの形で保全されること自体、特段、相手方に不利益を及ぼすものではないと考えられているからです。例えば、相手方に矛盾発言や責任否定発言がある、訴訟準備を相手方に察知された、記録保存期間が迫っている等の一見間接的と思える事由でも、容認されている実情があります。

 次に、証拠をどのような方法で保全するかですが、これは検証といって、通常は目的物を写真撮影ないしコピーするやり方が採られます。相手方は、明文上の根拠規定があるわけではないのですが、検証に協力すべき公法上の義務があると考えられています。しかし、たちの悪い医者であれば、「そんな要求をする権利がどこにある、根拠を示せ」などといって拒絶する事態も起こりえます。

 そういうときのために、証拠保全の申立にあたっては提示命令も付加するよう申し立てておく必要があります。提示命令を得ておけば、従わない場合に、証明妨害行為として相手方に不利益が及ぶため(民事訴訟法232条1項・224条)、その旨を相手方に告げることでかなりの心理的強制を加えることができます。ただ、裁判官によっては、この提示命令を出すことに抵抗を示すことがあります。そういった場合、裁判官面接時に粘って心証を崩すよりかは、提示命令の必要性を印象付けておいた上で、仮に、証拠保全の当日において上述したような非協力的姿勢に出くわしたときに、「ほら言ったこっちゃない」とばかりに、その場で提示命令を申し立てる心づもりでいればよいでしょう。

 なお、検証にあたって、写真撮影などに費用がかかるという点は、証拠保全の短所として挙げられます。もちろん、前々回紹介したような情報開示制度による場合であっても、写真や文書のコピーの実費負担は求められます。したがって、上記「費用がかかる」というのは、写真やコピーそれ自体にかかる費用ではなく、写真撮影を頼むカメラマン等の人件費を意味します。特に、東京では、半ばカメラマン同行を義務付ける運用がなされています。名古屋では、協同組合の専門カメラマンによる協力体制が敷かれています。それ以外の地方では、そういった運用はありませんが、一応、自由だからといって、裁判所書記官や不慣れな事務所職員らに写真撮影等を任せると、記録が大量であれば時間切れになることもありえます。裁判官等は、午後5時で帰ってしまいますので、それまでに写真撮影が終わらないと、証拠保全は一部不能のまま終了することになります。

 ちなみに、カメラマンの人件費だけでも10万円以上は覚悟しなければなりません。記録のコピーも量が多くなれば、その費用もばかにならないこともあります。そこで、注意してほしいのは、保全現場で診療記録等の相手方に、コピーないしプリントアウトしてもらう場合、予め1枚あたりの料金を確認しておくことです。相手方がとても親切に対応してくれるので、なすがままに任せていたら、後でコピー1枚80円といった法外な価格を要求された事例が実際にありました。保全に協力するために使用した人員と時間から、その人件費まで要求してくることさえあります。もちろん、そんな要求は跳ね返すのでしょうが、トラブル回避のための防衛策として覚えておいてほしいことです。

 また、相手方を訪れる前の医療機関(前医)や転院後の医療機関(後医)の診療記録等も入手する必要がある場合も少なくありません。その場合は、相手方と前医後医との関係から、前医後医の記録入手を証拠保全で行うか(共同不法行為を構成する場合等)、情報開示によって行うかを決めます。前者の場合、同時に証拠保全をしなければなりませんし、後者なら、前医後医から相手方に連絡が行ったりしないように、相手方に対する証拠保全を先に行う必要があります。