揺れる東京医科大学

 東京医科大学をめぐり、息子を裏口入学させた文部科学省の元局長や仲介役のコンサルタントが7月24日に起訴されるなど、話題が沸騰しています。

 このニュースにさらに燃料を投下したのが、東京医科大の入学試験の際、「女子受験者の得点を一律に減点し、女子の合格者数を抑えていた」問題です。

 関係者の話によると「女子は将来、医者になっても、結婚や出産で現場を離れてしまうから」という理由もあるからだそうですが、大学受験の世界において性別を対象とした“操作”が明らかになったのは、極めて異例なことで(ボクシング連盟の“あれ”には負けているようですが)、連日ワイドショーを賑わせています。

 この問題について、「許される」「許されない」の根拠を説明するため、憲法論的にお話ししてみたいと思います。

憲法第14条から考えてみる

 いきなり大きなところからいきますが、憲法第14条は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と明記されています。「法の下に平等」とは、くだけて言うならば、国が法律をもってなんらかの政策を打ち出す際、人種の違いや性別の違い、生まれた場所の違いによって、選挙権に優劣を設けたり、税金の額を変えたり、国家試験などの受験資格や合否に優劣を設けたりしてはいけない、ということを意味します。

 そして重要なことは、憲法第14条は国に対して「国民を平等に扱え」、すなわち「差別してはいけない」と戒めているのであって、個人や私企業に対し「差別してはいけない」ことを義務付けているわけではないということです。

これまで憲法第14条に違反していると指摘された国の政策

 実際に、国の政策が「国民を平等に扱っていない」と判断されて憲法第14条に違反しているとされたケースがいくつかあります。

 有名なところでは、「(1)結婚している夫婦の間に産まれた子供と、(2)この夫と愛人との間の子供では、夫(父)の相続の際、(1)の子供のほうが多く相続する」という民法の規定が、社会的身分による差別として憲法第14条に違反するとされた例があります。また最近では、女性のみ離婚後の「再婚禁止期間」がある民法の規定について、最高裁判所が「差別である」と判断したりもしています。

 少し難しいところでは、ある選挙区では1万票を獲得すれば当選できるのに、別な区では2万票を獲得しないと当選できないことは「1票の価値」に差別が発生しているとして、一部の弁護士さんたちがしょっちゅう、議員定数不均衡違憲訴訟という裁判をやっています。

なんでもかんでも「差別」はだめなのか?

 このように、国が法律をもって国民を差別することは禁止されているのですが、良いか悪いかは別として、現実問題として男女差別や人種差別なんて世の中にはいくらでもあるわけです。これらが全部、「憲法第14条に違反する」とされると、実は結構めんどくさいことになります。

 とても身近なところにフォーカスしてみます。

 標準モデルを使用している企業の就業規則には、労働基準法第68条の規定に基づいて「生理休暇」が規定されています。女性だけ国の政策によって「生理を理由とする法定の休暇」が法律によって認められているのですが、これも「女性だけ」という点を考えれば「国民を平等に扱っていない」ので憲法第14条に違反することになってしまいます。また、お茶の水女子大は国立大学ですが、女性しか入学させないというのも「差別」になってしまうかもしれません。

 しかしながら、これらの現実的な差別を、いちいち憲法違反だと言いだしたら、世の中回らなくなってしまうことは明らかです。そのため現行憲法が制定されてから今日までの間に、頭のいい憲法学者の方々は「いやいや、絶対的に『差別』がダメというわけではなくて、その法律や制度をつくる際に、合理的な目的があって、その目的を達成するために最小限の手段で行う『差別』は良いのよ」とか、「合理的な目的と、最小限の手段と、さらに、その手段がきちんと目的達成に役立っているという実質的な関連性が必要なのよ」などと、議論してきました(難しいので詳細は割愛します)。

 結局のところ、「『差別』は絶対にダメ」というわけではなくて、「差別」をするためのしっかりとした理由があって、その「差別」が理由に合致していれば、「差別」も許されるわけです。

私企業や私大ならいいのか?

 前述のとおり、憲法第14条は国による「差別」を禁止しているので、私企業や私立大学が性別を理由に「差別」しても、いきなり憲法違反ということにはなりません。

 もっとも、ある企業が女性だけ定年退職の時期を早めたことについて、最高裁判所は「公序良俗を定める民法第90条に違反する」として、そのような取決めを無効とした例もあります。したがって、私企業などが「差別」的なことをした場合には、あとからそれが「違法な差別」として、ペナルティを受ける可能性があります。

東京医大は法律的には悪くない?

 では、今回の私立大学である東京医科大のように、「女子受験者の得点を一律に減点し、女子の合格者数を抑え」ること、すなわち「男子を優遇し、女子を冷遇すること」は憲法第14条に違反しないまでも、何か問題になるのか? というと、正直なところ、マスコミが騒ぐほど大した問題ではないと考えています(山岸純個人としての意見であり、所属事務所、弁護士としての職業等は関係ありません。“炎上”した時のための言い訳です)。

 なぜなら、ウチの大学に誰を入学させようか、誰を入試で優遇しようか、というのはその大学が勝手に決めるべきことであり、とやかく叩かれることではないと考えるからです。

 例えば、ほとんどの私立大学では「入学金」のほかに「寄付金」があると思いますが、「寄付金」の支払期限は合格発表の前ではありませんか? 大学は「義務教育ではなく勉強したい者が行くところ」という性格がありますが、大学側からすれば「高校を卒業した人に全員来てほしいというわけではなく、大学が『こういう人を育てたい』『こういう人に育ってほしい』と思っている者に来てほしい」というのが理想です。

 そうであれば、極端な話、「ウチの大学は、教材にとてもたくさんお金がかかるので、最後まで授業についてこれるように、寄付金をたくさん払えるようなお金持ちの家のご子息だけに来てほしい」という目的をもって「寄付金」を多く支払った受験生を優先する、というのも十分に許されるわけです。医者の世界はまったくわかりませんが、「女子は将来、医者になっても結婚や出産で現場を離れてしまうから、卒業後に附属病院へ勤務することを期待している大学としては、男子の受験生を育てたい」という目的も、法律的には許されるかもしれません。

 実際、私立大学に関するどんな法律にも、「一定の目的をもって入試の点数を操作してはいけないよ」とは書いてありません。さらには、私立大学を監督する文部科学省は毎年、「大学入学者選抜実施要綱について(通知)」という御達しをもって大学受験の“あるべき姿”を通知しているのですが、平成31年度の通知にも、せいぜい「入学者選抜は、中立・公正に」という文言があるだけで、「公平」「平等」「差別なく」という話はあがっていません。

 要するに、それなりに納得できるような目的があれば、私立大学の選抜方法なんて、その大学に任せておけば良いということです。

 マスコミが騒いだことによりその大学に失望し、受験しようと思う女子が減って入学金や授業料が減っても、その分、男子が入学して金銭的には補填されるでしょうし、さらに、この少子化の世の中、男子も失望して全体の受験者が減っても、それはその大学が選択して招来した結果であり、自業自得という話だけです。もし経営難になれば、必然と方針も変わるでしょう。