今回の訴訟の争点

 今日判決が下された事件では、これまでの訴訟とは少し異なり、ワンセグ視聴が可能な携帯電話を所持することが「受信設備を設置」する行為にあたるといえるかが争われました。
 こんにち、ワンセグ携帯のみならず、カーナビやパソコンなど、テレビ放送を受信することのできるツールはたくさんありますが、これらが単に「NHK放送を受信することが可能」であるというだけで放送法64条1項に定める「受信設備」にあたるとすれば、これらの道具を入手するだけで、上に述べたような理屈を根拠としてNHKと受信契約を締結し、受信料を支払わなければならなくなってしまいます。

本件判決の及ぶ範囲は? ※8/30加筆修正

 一部報道によると、放送法2条14号で「設置」と「携帯」が区別されていることをもって、ワンセグ携帯を購入することが受信設備の「設置」と評価することは文理上困難であるというのが結論に至った根拠であるとされているようです。

 すなわち、(1) 放送法2条14号は、「自動車その他の陸上を移動するものに設置して使用し、又は携帯して使用するための受信設備により受信され・・・」という条文になっており、「設置」する行為と「携帯」する行為が明確に分けられているところ、64条1項では、受信設備を「設置」した場合に受信契約の締結義務を定める一方、「携帯」している場合に関しては言及がない。(2) 2条14号は近年の放送法改正により新たに設けられた規定であり、同改正において64条1項の修正が検討された事情は伺えないから、「設置」でなく「携帯」と評価すべきものについては、受信契約締結義務を課さないというのが立法趣旨とみるべきである。(3) ワンセグ携帯を所持する行為は、通常の用法に照らして考えれば「設置」ではなく「携帯」と評価できるから、上記解釈に鑑みれば、ワンセグ携帯を入手し所有したとしても、受信契約締結義務を負うことにはならない。
 以上が、結論を下した裁判所の考えであろうと推測されます。

 本記事を執筆する時点では、判決の全文を入手できておらず、詳細な判決理由までは分析ができているわけではありませんが、私見としては、ワンセグ携帯が「放送の受信を目的としない受信設備」にあたるとの主張もあり得るところではないかとも思いますし、私自身もっと詳しく判決文を検討してみたいと考えています。いずれにせよ現段階では、今回の判決の趣旨として、ある道具がテレビ放送を視聴できるとしても、その道具の主たる目的がテレビの視聴におかれていないと判断されれば、受信契約締結義務が課せられない場合があるという点を述べたにとどまると考えられ、その射程がカーナビやネットテレビなどにまで無限に波及するとはいえないように思います。

 今後、判決文の詳細が明らかになった時点で、このホームページで詳しくご紹介できればと考えています。