お盆休みも終わり、酷暑の中にも朝夕少しずつ秋の気配を感じられるようになってきました。
夏休み、飛行機でお出掛けになった方も少なくないのではないでしょうか。
私も夏休みを利用して家族で海外に出掛けていたのですが、預けていたベビーカーが最終目的地のバゲッジクレームから出て来ず、何度エアラインに連絡しても紛失した場所が分からないということで、少々苦労させられました。海外ではロストバゲッジは日常茶飯事ですが、いざ自分が当事者になると本当に困ってしまいます。
手荷物の遅延だけでは、航空会社は賠償責任を負わない
今年の夏は、全日空の国内線で大規模な手荷物遅延が発生して大きな問題になっていましたね。日本では、国内線で預けた荷物が届かないというのはあまり聞きませんから、今回のように何十もの航空機で同時多発的に不達が生じると大きく報じられてしまいます。
あれだけ大きなニュースになった事件だから、航空会社はさぞ巨額の賠償責任を負うのでは・・と思われるかもしれません。しかし、よほど特別な事情がない限り、手荷物の遅延が生じただけでは、航空会社はその賠償責任を負わないのです。
あまり知られていないことかもしれませんが、搭乗時に預けた手荷物は、搭乗する人と一緒に運んでもらうことが確実に約束されているわけではありません。航空便を利用する場合の条件は各航空会社の約款に定められていますが、その中で、寄託手荷物を搭乗機以外の便で輸送する可能性のあることが明示されています。JALやANA、スカイマークをはじめ、スターフライヤー、ソラシドエア、Air Do、ピーチアビエーション、ジェットスター、バニラエア・・などなど、日本で国内線を定期運行している航空会社は、私が調べた限り全て同趣旨の規定を設けていました。
航空機を利用する旅客は原則として約款の定めに拘束されますので、手荷物を預ける限り、搭乗機以外での手荷物運送の可能性を承諾したことになります。したがって、特段の事情がない限り、最終的に目的地まで荷物が届いたのであれば、到着が遅れたとしても航空会社としては預託された趣旨を十分に果たしたと主張することができてしまうわけです。
手荷物の紛失や破損の場合は賠償してもらえるのか?
さらに、預けた荷物が紛失したり、破損してしまったようなときにも、航空会社に対しては損害額全額を常に賠償してもらえるわけではありません。前述のANAの約款を見てみると、寄託手荷物の運送に関して生じた損害の賠償額を、原則として旅客一人あたり最高15万円とする規定が設けられています。
ペットと一緒に旅行をする場合には、ペットはケージに入れた状態で手荷物として預けることになりますが、これについても同じ扱いがなされますから、手荷物の輸送が遅れてペットが体調を崩し、不幸にも亡くなってしまった・・といった場合でも、航空会社から賠償してもらえるのはこの15万円が上限です。さらにいえば、ペットを預ける際、仮にペットが死傷したとしても、その原因がペットの健康状態や体質等にある場合には航空会社に対し責任追及を行わないといった趣旨の同意書へのサインを求められますので、実際に預けたペットに何らかの事故があったとしても、この同意書が壁となって、航空会社に対して何らの賠償請求もできないという可能性が高いと考えられます。
国際線でもロストバゲッジに関する規律はほぼ同じ
これが国際線であっても、多くのエアラインで基本的にはほぼ同等の規律が約款に定められており、手荷物の単なる遅延だけでは航空会社に損害賠償を求めるのはほぼ不可能です。また、手荷物の破損・紛失の場合についても、当事国間で締結している条約(ワルソー条約もしくはモントリオール条約)の関係で、手荷物1kgあたり250金フラン(≒2800円)ないし一旅客あたり1000SDR(≒16万円)が上限と定められています。
何の気なしに預けがちな手荷物ですが、こうやって見ると、スーツケースひとつ預けるのでも案外シビアだということがお分かりいただけるのではないでしょうか。
余談ながら、我が家のベビーカーは、ドバイから世界中をぐるぐる巡った挙げ句、帰国する前日に関空に戻ったとの連絡が入りました。「目的地まで運ぶ」という契約は結局果たされなかったわけで、その意味では航空会社に対して文句をつけることもできる事案なのでしょうが、旅行も全てつつがなく終わった今、微々たる額の賠償を求めて英語で交渉しなければならない面倒臭さを前に、やや逡巡を覚える今日この頃です。