先のゴールデンウィーク、皆さんはどこかに出掛けられましたか?飛び石連休で休みが限られていたからか、高速道路はどこも大渋滞だったみたいですね。

 そんな中、交通事故に関するニュースも多く流れていました。特に驚いたのは、島根県の県道で落石事故があり、乗っていた女子大生が亡くなったという痛ましい事故でした。その後の報道によると、同一箇所で過去にも落石事故が生じたことがあったとのこと。

 私は、弁護士としての仕事の傍ら、大阪大学でまちづくりに関する研究に携わっているのですが、ちょうど道路管理の瑕疵と国家賠償責任に関する論文を学会に提出したばかりだったので、このような事故については人一倍思うところがあります。十分な安全対策がなされていたか、今後きちんと検証が尽くされる必要があるでしょう。

 自動車の運転中にハンドル操作を誤り、壁に激突したような場合は、自損事故であって、第三者に対しては何ら賠償請求ができないことは言うまでもありません。しかし、今回のような落石事故の場合、事故が生じた原因が<落下してきた岩>であることは明らかであり、その岩が<管理された道路の法面から落下した>以上は、生じた損害の賠償責任は道路管理者が負担しなければなりません。これが、国家賠償法2条1項の「営造物責任」と呼ばれる規定です。

 河川や海浜などの自然公物とは異なり、道路や港湾設備などの「人工公物」については、これを利用する人に危害が及ばないよう十分な管理状態を例外なく常に維持し続けなければならないとするのが判例の立場です。「絶対的安全確保義務」と呼ばれたりしますが、この義務の内容は司法判断において極めて厳格に解されています。過去に高知県で、今回と同様に落石が原因で運転者が死亡した事故に関し、最高裁判所は、安全対策に過大な予算出動が必要であるという事情は言い訳として認めない、と言い切っています。さらに、岐阜県で記録的な大雨が降り、これに伴う土砂崩れに巻き込まれてバスが増水した川に転落、多数の乗客乗員が死傷した事故では、斜面崩壊発生の可能性を十分に認識し得たにもかかわらず通行止め等の措置を執らなかった点について管理瑕疵を肯定し、遺族による賠償請求を認容した裁判例が存在します。

 今回の落石事故に関しても、岩石の落下に至った事情がまだ明らかでないものの、そもそも<岩石が落下し得るような状態の道路を漫然と放置した>ということ自体が道路の管理瑕疵として問われ、県の賠償責任が肯定される可能性は相当高いのではないかと考えられます

 ちなみに、実務上よく問題となる「営造物責任」は、この落石事故のような大規模事故ではなく、むしろ道路に穴ぼこができていたために車輪が取られて二輪車が転倒したとか、植栽が伸び過ぎていて見通しが悪くなり接触事故が発生した、などというような、比較的軽微な事案が中心です。そして、そのような事案では、<道路に瑕疵があったといえるか>という問題に加え、<当該瑕疵が事故の発生にどの程度寄与したか>、すなわち過失割合の問題が中心的な争点となることが多い印象があります。

 先ほど触れたような自損事故であったとしても、そのような自損事故に至った原因に何らかの道路の不具合があるような場合には、道路管理者の責任の有無が問題となる可能性は十分にあります。交通事故で少しでも気になることがあれば、車両保険を使って修理をする前に、一度弁護士に相談してみるのが大切ですね。