熊本で、大きな地震が立て続けに発生しており、かつて阪神大震災を直接経験した身として、報道に接するたびに強く胸を痛めています。被災された方々が、少しでも早く生活の平穏を取り戻すことができるよう祈るばかりです。
不幸にも自宅が震災によって被害を受けた場合、役に立つ備えが地震保険です。地震保険は、火災保険に附帯される特約として設けられている保険であり、超大規模災害にも対応できるよう、政府が再保険(保険金の支払を保証すること)するという仕組みになっています。そして、地震や火山の噴火によって家屋が損壊した場合、被災の程度に応じて「全損」「半損」「一部損」に分類され、それぞれに対応する保険金が支給されることになります。地震や噴火によって生じた火災のために家屋が焼失した場合には、通常の火災保険では保険金が支払われませんが、地震保険に加入していれば、あらかじめ定めた保険金が下りることになります。
このように、備えあれば憂いなし・・のはずの地震保険。ところが実は、保険金の支払にあたって保険会社との間で紛争になっている事例が案外少なくないことはあまり知られていません。特に多いのが、地震の発生と近接して生じた火災が地震に起因するものであるか否かが争われるケースです。
阪神大震災の発生後、8時間が経過してから発生した火災の延焼により自宅が焼失したという事案で、最高裁判所は保険金の支払を認めないという判決を下しました(最高裁H15.12.9)。これは、保険金請求者が火災保険にしか加入しておらず、火災が地震との因果関係を認められたが故に保険金の給付が認められなかったわけですが、逆に火災が地震によって生じたとされた場合には、支払われる保険金は通常の火災保険による保険金よりも低額になる可能性が高く(地震保険が大規模災害に対応する性質のものであることから、保険金額は火災保険の担保額の30~50%程度に設定されることになっています)、火災の原因が何であるかは被災者が受け取ることのできる保険金の金額に大きな影響を及ぼすといえます。
また、被災の程度に関する判定が争われることも少なくありません。前述のとおり、地震保険の保険金支払は、損壊の程度が全損か半損か一部損か、という評価に応じてなされるわけですが、これは火災による焼失の程度も同様に判断がなされます。そのため、阪神大震災の際には、半損と評価される程度の自宅について、自家放火をして全損状態に近付ける・・、そんな行動が散見されたといわれています。
言うまでもなく、自宅であってもこれに火をつける行為には建造物等放火罪(刑法108条・109条)が成立しますし、特に現住建造物放火にあたると判断されれば、死刑や無期刑に問われかねない重大な事態となってしまいます。
このような放火はやや大げさな話のように聞こえるかもしれませんが、大規模な災害が起きると被災地で犯罪が増加する、というのはよく言われるところです。避難のため空き家となっている家屋に空き巣が入ったとか、停電で暗くなった夜道で女性が襲われたとかいう事例は残念ながら事実として存在するようですが、その一方で、統計上は、阪神大震災や東日本大震災の後に被災地で刑法犯が有意に増加したとまでは言い切れないようです。今なお被災地で避難生活を送っておられる方々には、まずは身の回りの物に気を配る、避難等で家を空ける際には上階の窓なども含めた戸締りを確実にする、といった、日常当たり前の防犯対策をきちんと行うのはもちろんのこと、ボランティアや共に避難生活を送る方々と自警活動を行うなどして治安意識を高め、くれぐれも妙なデマなどに惑わされることなく過ごして欲しいと心から思っています。