先日、自民党大会でスピーチする安倍首相を伝えるニュース画像のテロップで、本来であれば「選挙のためだったら何でもする、誰とでも組む、こんな無責任な勢力に負けるわけにはいかない」とすべきところを、「選挙のためだったら何でもする」とだけ流したことが問題となり、後でアナウンサーが謝罪した、といったニュースがありました。

 「選挙のためだったら何でもする」だと、まるで、安倍首相は「自民党は選挙に勝つためには何でもする」という発言をしたかのようにとらえられますが、真実は、「選挙のためだったら何でもする」のは、民主党などを指して発言したものであり、意味合いがまったく違います。

 このような”放送事故”、もし、わざとやっていたような場合、どのようなことになるのでしょうか。
 最近、テレビ放送を所管する総務省の大臣が「国家権力がテレビ放送を停止する可能性を言いだした」などといったトピックもありましたので、今一度、「放送法」について解説してみたいと思います。

 そもそも、「放送法」とは、国民の利便性や表現の自由の保護などのために、特にテレビ放送のあり方や放送内容の基準などについて定めたものです。
 その中で放送法第4条は、「テレビ局は、政治的に公平であること、事実をまげないこと、意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を定めています。
 これは、「テレビ放送」というものが、ニュースなどを家庭の”お茶の間”にタイムリー且つダイレクトに届けることができるメディアであり、理論的には1億3000万人の国民全員が一度に同じ映像を見ることもできるということから、その影響力の大きさに鑑みて、新聞や雑誌のようなメディアにはない一種の「規制」を設けたのです。
 この規定、実は、法律家の間では、昔から「表現の自由」を制限するものでは?といった議論がされてきました(実際、平成7年の司法試験では、憲法の試験に出題されています)。
 しかし、テレビ放送は電波という限りあるものを使うメディアであるし、前述のように、瞬時に大量の人に向けて発信でき、社会的影響力が大きいという特殊性がある、という理由で憲法上は問題ない、とされています。

 このように、「放送法」は、「政治的に公平」であることをテレビ局に求めています。

 ところで、先ほどの総務大臣の発言についてですが、確かに「電波法」という法律では、「総務大臣は、テレビ放送局などが放送法などに違反したときは、その電波を制限することができる」と規定されています。
 それでは、わざと「自民党は選挙に勝つためには何でもする」といったテロップを流し、安倍首相のイメージを悪くするような放送をした場合、本当に放送停止になってしまうのでしょうか。

これについて総務省は、

① 法律に違反したテレビ放送が行われたことが明らかである、
② そのテレビ放送が公共の利益を害し、放送法の目的にも反しており、これを将来に向けて阻止することが必要であり、かつ、
③ 同一のテレビ局が同様の事態を繰り返し、かつ、事態発生の原因から再発防止のための措置が十分でなく、テレビ局の自主規制に期待するのでは、法律を遵守した放送が確保されないと認められる、

という極めて限定された場合に限って「電波を制限することができる」と解説しています。

 したがって、1回や2回程度、わざと放送法に違反しただけではテレビ放送の停止というペナルティが下されることはないようです。
 安倍首相のテロップも、わざとやったわけではないでしょうし、まして、自民党を貶めるような意図もなかったでしょうから、そもそも放送法違反にはあたらないでしょう。

 もっとも、あるテレビ局の某番組が、繰り返し繰り返し一部の政党の考え・政策に偏ったテレビ放送を流し続け、これが国民にとって悪影響(一部の政党の宣伝番組としかか考えられないような事態など)となる場合で、改善されないような場合には、「電波を制限することができる」のかもしれません。
 実際、夜の時間帯のニュース番組を見ていると、ゲスト出演者の属性・思想と、その出演者がニュースに対しコメントする”尺”の長さからして、「おや?」と思うことは多々あります。
 これだけでは、「政治的に公平」という放送法に違反したと明確に判断することはできませんし、もちろん、「電波を制限することができる」わけでもありません。しかし、放送法の規定うんぬんの前に、「政治的に公平」であるべきという理念を忘れてしまっているのでは?という疑問を持たざるを得ないニュース番組が存在することは否定できないのではないでしょうか。