昨年12月、埼玉県の男性がグーグル社に対し、過去の自分の犯罪歴が記載されたニュースの「検索結果」を削除するよう求めていた裁判で、さいたま地方裁判所は「ある程度、時間が経過した後は、自分の過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』がある」、「(グーグルが過去の犯罪歴を検索結果として表示することは)男性にとって犯罪後の更正を妨げられない権利を侵害している」旨、判断し、削除するよう命じていたようです。

 この男性、3年以上前に児童買春・ポルノ禁止法違反の罪で罰金50万円の略式命令が確定していたのですが、名前と住所でグーグル検索すると未だに逮捕時のニュースが「検索結果」として表示されてしまっていたようです。

 確かに、何年も前の犯罪歴で、しっかりと刑罰を受け終わった(罰金を払い終わった)犯罪についてまで公開されるのは嫌な話です。しかも、インターネット上の情報は、雑誌などの紙媒体と違って劣化しませんし、理論上は半永久的に残ることになります。

 今回、この男性は、「忘れられる権利」を主張してグーグル社に「検索結果」の削除を求めたわけですが、実はこの「忘れられる権利」は2011年のフランスの裁判所において初登場した新しい権利です。この事件は、女性がグーグル社に対し「インターネット上の過去のヌード写真」を削除するよう求めた裁判で、フランスの裁判所は「忘れられる権利」を認めた上で、グーグル社に対し削除を命じました。
 これは、世界で初めて「忘れられる権利」が登場した裁判とされています。
 この裁判を受けて、EU(欧州連合)では一定の場合に自分の個人データを削除させることができる法律を制定するなどしたようですが、実は、日本では、「忘れられる権利」そのものではないとしても、よく似た判決が1981年に下されています。
 この事件は、弁護士法23条の2に基づく事実照会を受けた京都市伏見区役所が、ある男性の過去の犯罪歴を開示してしまったことについて損害賠償などが請求された事件です。弁護士法23条の2は、「弁護士は、受任している事件に関することについて、弁護士会を通して、行政機関などに照会できる」制度を定めているのですが、伏見区役所が弁護士会からの「過去の犯罪歴の照会」に応じてしまったことが違法かどうかが争われました。
 1975年、京都地方裁判所は男性の損害賠償請求などを退けましたが、大阪高等裁判所も最高裁も「過去の犯罪歴について、その犯罪の種類や軽重などを考慮しないで、前科全てを開示したことは違法である」と判断し、損害賠償の一部を認めました。
 この最高裁の判断は、あくまで「プライバシー権」侵害の一つとして損害賠償を認めたものですが、見かたを変えれば「過去の犯罪歴をむやみに開示されたくない、拡散して欲しくない利益」と言うこともできるでしょう。

 もっとも、今、議論されている「忘れられる権利」とは、「インターネット上の情報」そのものを削除する権利ではなく、「検索結果に表示されない権利」として理解されつつあるようです。
 これは、日本では、プロバイダー制限責任法によって、一定の場合にプロバイダー等が「インターネット上の情報」そのものの削除に自主的に応じているので、この法律では対応しきれない「検索結果」の削除に限った議論をしているようです。

 もっとも、今日の一般的なインターネット上で情報を取得する方法は、知りたい情報が掲載されたURLをいちいち入力してそのサイトを閲覧するのではなく、まず、ヤフーやグーグルなどの検索サイトを利用してキーワード検索し、その「検索結果」に基づいてサイト閲覧をするわけですから、「知られたくない情報」をインターネット上から根絶するためには、一番最初に表示される「検索結果」からその情報を削除するのが効果的ですし現実的です。

 さいたま地方裁判所は、このようなインターネットの特性を重視して今回の判断を行ったものと理解することができます。
 ところで、例えば、政治家などであれば、10年以上前の”痴漢”犯罪であっても、政治家としての資質を問うためにその情報は重要ですし、残さなければならないと思いますが、一般人の場合、犯罪者に対するレッテル貼りが厳しいこのご時世では、たとえ小さな犯罪であっても過去に「前科」があれば会社をクビにされてしまう傾向がありますので、しっかりと罪を償ったあとは、必要以上にインターネット上に表示しない、拡散しない、ぶり返させないという取り組みは極めて重要です。

 この観点からも、今回の裁判は注目すべきものと考えることが出来ます。